頂き物&献上品(セカコイ)
□【頂き物】icecream
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icecream
季節は冬。
寒さで顔は赤くなって耳も痛くて両手も悴んでいるというのに、俺は今コンビニへアイスを買いに出かけている。
冬だからこそ無性に食べたくなる時がある。
俺は目当てのアイスを購入してコンビニを後にする。
自宅へ戻ってくる途中の坂道、偶然あの人に会った。
「何やってんだお前」
「高野さん・・・」
「買い物か」
「あ、はい・・・アイスが食べたくなって」
「うわー。この寒いのにアイスとか・・・お前馬鹿だろ」
高野さんは俺が持っているコンビニの袋を一瞥して心底嫌そうな顔をする。
「夏の暑い日に鍋を食べたくなるのと一緒ですよ!」
「俺にしてみればどっちもありえねぇな」
「ぐ・・・」
どこまでもマイペースな人だ。
だけど確かに言われてみれば、夏に鍋を食べる高野さんも、冬にアイスを頬張る高野さんも想像できない。
そもそも高野さんはそういう無謀なことはしないのだろう。
「このクソ寒いのになんで体が冷えるもんを欲しがるかな・・・理解できねぇ」
「ははは・・・」
やっぱりそうですよね。
でも俺は食べたかったんですよ。
だからこの寒い中わざわざコンビニまで買に行ったわけで。
俺がそう言えば、高野さんは眉間の皺を深くした。
「で?」
「でってなんですか」
「この寒い中アイス食ったあとはどうすんの?」
「熱いお湯で温まった後に食べるんですよ。最高じゃないですか」
「馬鹿じゃねぇの?風呂入った後に食べたらまた冷えるだろうが」
「それは、そうですけど・・・」
「はっ」
鼻で笑う高野さんの表情がやけにイラっとくる。
それはいつものことだとしても、別に俺の好きなことを高野さんに理解してもらおうなどとは思っていないのだから放っておいてほしい。
「なら俺が温めてやろうか」
「?どうやってですか?」
「どうって・・・ベッドの上で俺の、」
「わー!わー!わー!言わなくていいです!!!」
「チッ・・・なんだよ。お前から聞いたくせに」
「なんであんたは・・・もう少し恥じらいを持ったらどうなんですか」
「いい年こいた男が今更恥らってどうすんだよ。お前だったら可愛いで済むだろうけどな」
「な・・・っ!か、かわいいって・・・何言ってんですか!」
「いつも言ってるだろ。いい加減慣れろよ」
高野さんは俺の手を取って歩きはじめる。
だいぶ冷えてしまった右手は、今高野さんの手のひらに包まれている。
温かみの欠片もなさそうな顔していて、高野さんの手は思っていた以上に熱を持っている。
その熱が、今の俺には幸せな温度で。
気が付いたら、俺は高野さんの左手を握り返していた。
それに気づいた高野さんが、したり顔で俺の顔を見てきたけど、知らないふりをした。
「小野寺」
「なんですか」
「今日このままうち来い」
「なんで・・・」
「上司命令」
「嫌だって言ったら?」
「お前の家に上がりこむ」
「絶対嫌です!」
「じゃ俺んちで決定だな」
「・・・っ」
顔に熱が集まるのを意識しないように、俺はわざとアイスが解けていないかを心配した。
高野さんは大丈夫だって笑う。
俺の心臓はさっきから五月蠅いままだ。
しっかりしろ、俺。
そう自分を叱咤しないと、俺は高野さんにアイスの如くその熱で溶かされてしまいそうで怖い。
家まであと数十メートル。
アイスが溶けるのが先か、この心臓が壊れるほうが先か。
俺は最後の抵抗を試みるのだった。
END