パラレル小話(アイシ)

□War of Angels and Demons 3
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テメーはたった今、死んだ。
金髪の男は冷酷にそう言い放たれ、思わず「は?」と抗議の声を上げる。
だが足元を指差され、そちらを見た武蔵は「うわ!」と悲鳴を上げた。

武蔵厳は仕事中だった。
職業は大工。
父親が経営する工務店で働いている。
今は依頼を受けて、一戸建て住宅を建築中だ。

だがその最中、アクシデントが起こった。
組んでいた足場が崩れ、武蔵は落下したのだ。
基礎工事は終わっているが、まだ床などは貼られていない未完成の住宅。
武蔵は頭を強く打って、意識が飛んだ。

意識が戻った武蔵はゆっくりと目を開けた。
すると一緒に働いていた仲間たちが「大変だ」「厳さんが!」と慌てているのが目に入る。
武蔵は慌てて身体を起こすと「大丈夫」と告げた。
だが混乱する仲間たちは、武蔵の方を見ようともせず混乱している。

どうした?俺は何ともないぞ?
武蔵はオロオロと騒いでいる仲間たちに声を上げながら、自分の身体を確認した。
頭を打ったと思ったが痛くもないし、ケガもしていないようだ。
それなのにどうしてと首を傾げると、不意に「おい」と声をかけられる。
振り向くといつの間にか横には2人の男が立っていた。

何だ?部外者がいつ入り込んだんだ?
武蔵は2人に向き直ると、声を荒げた。
冗談じゃない。
ここは危険な建築現場、関係ない者にウロチョロされては困る。
顔をしかめた武蔵は「出て行ってくれ」と告げたのだが。

2人は出ていこうとはしなかった。
武蔵は彼らを睨みつけながら「出て行け」と命じる。
それでも動かない2人を観察した。
金色の髪を逆立てた秀麗な青年と、可愛らしい黒髪の少年。
単に建築現場に似つかわしくないだけでなく、どこか不思議な雰囲気を持っている。

テメーはたった今、死んだ。
不意に金髪の青年が冷酷に言い放った。
武蔵は思わず「は?」と抗議の声を上げる。
死んだ?意味がわからない。

すると金髪の青年が武蔵の足元を指差した。
思わずそちらを見た武蔵は「うわ!」と悲鳴を上げる。
武蔵の足元には、見慣れた武蔵の身体が横たわっていた。
頭から大量の血を流し、虚ろに目を開けて動かない。
どこからどう見ても死体だ。

あなたは建築作業中に足場が崩れて、転落死したんですよ。
今度は黒髪の少年が申し訳なさそうにそう言った。
武蔵は思わず「ふざけるな!」と声を荒げる。
すると少年が「申し訳ありません」と頭を下げた。

お前があやまることじゃねぇよ。
金髪の青年が黒髪の少年に声をかけた。
だが少年は「それはそうですけど」と苦笑する。
青年は「同情はいらねぇ。さっさと片づけよう」と指示を出した。

わかりました。じゃあ改めて。
あなたは今、死にました。
我々は天使と悪魔で、パートナー兼恋人同士です。

黒髪の少年のカミングアウト的な物言いに、武蔵は「ハァァ!?」と声を上げた。
天使と悪魔?恋人同士?
まったく悪ふざけが過ぎる。
だが黒髪の少年は武蔵のリアクションはあっさりとスルーした。

あなたには、3つのお願いをかなえる権利があります。
黒髪の少年は淡々と続ける。
すると金髪の青年がなぜか「ハァァ?」と声を上げた。

このジジィの願い事が3つ?間違いだろ!
金髪の青年の怒りに、黒髪の少年が呆れたように「ハァァ」とため息をついた。
そして「間違いじゃありません。彼はまだ10代ですよ」と答える。
さらに武蔵には申し訳なさそうに「すみません。お願いの数は年齢で算出するもので」と言った。

こいつが10代?嘘だろ?
嘘じゃありませんよ。ちゃんと事前資料には目を通してください!

2人がポンポンと言い合うのを聞いて、武蔵は憮然としていた。
老け顔なのは承知している。
だがまさか見ず知らずの2人にネタにされるとは。

そして改めて周囲を見回した。
足元には自分としか思えない、真新しい死体。
そして自分のことが見えないらしい仲間たちは、死体を囲んでオロオロしている。
にわかに信じがたいが、この妙な2人の言う通りらしい。
武蔵は今、ここで死んだのだ。

冗談じゃない!
武蔵は天使と悪魔に向き直った。
今自分が逝ってしまったら、残された父と工務店はどうなる。
事実を認識はしたが、それを受け入れることはできなかった。
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