パラレル小話(アイシ)

□Attack the Unknown
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世界中を巻き込んだ戦争は終わったそうだ。
だが彼らの戦いは、まだまだ終わる気配を見せなかった。
そもそも第三次世界大戦と呼ばれた先の戦争を、彼らは知らない。
何しろ終わって20年以上は経つらしいが、彼らはその頃まだ生まれていないのだ。

政府は彼らをテロリストと呼ぶが、彼らには政治的な思想はない。
彼らはただ生きたいだけだった。
食べ物を手に入れ、毎日を生き抜く。
だが戦争で壊滅的な被害を受けたこの国は、まったく復興の気配がない。
当然仕事もないし、食料もない。
だから略奪という行為で生計を立てるしかないのだった。

最初は単に小さな盗みであったのに、それが組織化し、その数も増えていく。
だから富や食料を持つ側は、警備を強固にする。
それに対抗するために、略奪する側は武装した。
いつしか警察では手に追えず、今度は軍が制圧に乗り出すようになる。
そして軍対テログループという内戦状態が出来上がったのだった。

グループの1つ「デビルバッツ」は蛭魔妖一をリーダーとした攻撃的なグループだ。
構成するメンバーはすべて10代の少年。
1人1人の力は劣るが、蛭魔の戦略により数々の試練を乗り越えてきた。
彼らは戦争によって廃墟と化した学校の校舎をアジトにしていた。
もっとも彼らは学校というものを知らないから、ただの大きな建物としか思っていない。
大事なのは立地条件だ。
軍の基地から目と鼻の先にあるため、逆にバレることなく見事に軍を騙していたのだ。

蛭魔はアジトの中の、昔は教室だった部屋にいた。
他の者たちは、何人かで1つの部屋を割り当てられている。
だが蛭魔だけはリーダーの特権で、1つの部屋を1人で使っていた。

蛭魔は床に直接腰を下ろし、長い足を投げ出すように座っていた。
そして膝の上に軍仕様のノートパソコンを置き、カチャカチャと叩いている。
以前、軍の小隊とやりあったときに奪い取ったものだ。
戦略を立てたり、情報を得るのに重宝している。
蛭魔は整った顔立ちと長身から20歳以下には見えないが、実は17歳という若さだ。
そこへ対照的に16歳なのに10歳くらいにしか見えない幼い顔の少年が入ってきた。

蛭魔さん、コーヒーお持ちしましたよ。
少年はその場にしゃがむと、蛭魔の右手が届くあたりの床の上に、コーヒーのカップを置いた。
そして「熱いので、気をつけて下さいね」と笑う。
その手首に包帯が巻かれているのを見て、蛭魔はパソコンを打つ手を止めた。
そして「セナ、その手はどうした?」と咎めるように聞いた。

何でもないですよ。さっき食料の調達に出たときにちょっと。
セナと呼ばれた少年は、慌てて誤魔化そうとしている。
だが蛭魔は「食料って何だ」と、さらに問い詰めた。
困ったように苦笑するセナは、チラリとまだ湯気を立てているコーヒーのカップを見た。
蛭魔はやっぱりそうかとため息をつく。
コーヒー好きの蛭魔のために、セナはコーヒーの調達に出たのだ。
おそらく軍の倉庫に忍び込んだところを見つかって、逃げるときに負傷したのだろう。

気持ちはありがたいが、無茶だけはするな。
俺のコーヒーのためなんか、どうでもいい。
蛭魔がそう言いかけたとき、大きな爆発音がしてアジト全体が大きく揺れた。
さらに2回、3回と砲弾の爆発が続き、銃撃音が重なる。
このアジトへの攻撃であることは、間違いないようだ。

「軍の急襲だ!」
「応戦しろ!」
仲間の少年たちが叫んでいる声が聞こえてきた。
蛭魔もセナも迷うことなく部屋の隅においてあった銃器類を手にすると、部屋を飛び出した。
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