パラレル小話(セカコイ)

□略奪者
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好きな作家ですか?一番は宇佐見秋彦かなぁ。
目の前の青年が軽く小首を傾げて、微笑する。
これはなかなかの拾い物だったかもしれない。
高野政宗は、心の中だけでニンマリと笑った。

お兄さん、俺にご飯でも奢ってくれない?
コテコテのナンパよろしく高野に声をかけてきたのは、美しい青年だった。
小さな顔に整った顔立ち、何より印象的なのはちょっとグレーがかった緑色の大きな瞳。
サラリとした茶色の髪も、小柄で華奢な身体もいい。
着ている服もカジュアルではあるが、それなりに金がかかっていることは見て取れる。
基本的には両刀、いわゆる男も女もイケてしまう高野はその外見を大いに気に入った。

ならば内面はどうだ?
そう思った高野が「いいよ。奢ってやるよ」と連れてきたのは、有名な高級イタリアンだった。
どんなに外見が綺麗でも、それなりの知性がない者はゴメンだ。
カッコばかりの美青年かどうか、見極めてやるつもりだった。
だがこの青年は、高級レストランでもまったく動じることはなかった。
高級料理は食べ慣れているようだし、テーブルマナーもきちんとしている。

何よりも頭もいいし、高野と趣味も合いそうだ。
特に文芸が好きなようで、どんな作品の話をしても「読んだことあります」と答えて、感想まで語るのだ。
これはなかなかの拾い物だったかもしれない。
高野は心の中だけでニンマリと笑った。

俺の部屋に来ないか?と高野は青年を誘った。
当初はホテルにでも連れ込むつもりだったが、気が変わった。
この青年を自分のテリトリーで愛でたいと思ったのだ。
青年がどこか照れたような表情でコクンと頷くのが、可愛かった。
ナンパなどするくらいだから、見かけほどウブではないのはわかっている。
それでも初々しさがサマになっているのだから、大したものだ。


小野寺律は男が浴室にシャワーを浴びに行くのを見て、立ち上がった。
声をかけた瞬間から、男がずっと律を値踏みしているのはわかっていた。
律が狙うのは基本的にこういう男だ。
自分に絶対の自信を持っていて、遊ぶ相手にもそれなりのレベルを求めるのだ。
それでいて街で知り合った男を金で買うことが、最低だとは思わない。
だがそんな男に限って、金回りがよかったりするのだ。
思った通り、食事は高級イタリアンだったし、連れ込まれた部屋もまた超高級マンションだ。

律は男と寝るつもりなどない。
金だけいただいて、さっさと逃げるつもりだった。
この手の男は行為の前にシャワーを浴びるのを当たり前としているから、律にとって都合がいい。

律は手に持っていたミネラルウォーターのボトルをテーブルに置いた。
男が冷蔵庫から出して渡してくれたもので、男は律がそれに口をつけるのをじっと見ていた。
馬鹿な男だと、律はほくそ笑んだ。
ミネラルウォーターを飲むのを確認するように、バスルームへ消えた男。
この中に薬物が入っています、と教えているようなものではないか。
多分睡眠薬、それとも筋肉弛緩剤だろうか。
だから律は口をつけて飲む振りだけをして、男を見送ったのだ。

律は男がソファの上に脱ぎ捨てたままのジャケットを見た。
内ポケットには財布が入っている。
先程の高級イタリアンで会計をするときに、チラリと見た男の財布は札で膨らんでいた。

律は念のために、そっとバスルームのドアを開けた。
万が一にも男が律の裏をかくことを警戒したのだ。
男がバスルームの中に潜んで律の様子をうかがっているようなことがあれば、それはそれでいい。
その時は「一緒に入ろうと思ったのに」と拗ねて「自分を疑っていたのか」と詰め寄ればいい。
そしてそんな相手と寝たくないと言い張って、金だけせしめればいいのだ。

だがバスルームの男は、本当にシャワーを浴びていた。
髪を洗っている様子が、すりガラス越しに見える。
今日の獲物は、本当に間抜けだ。
まったく無警戒なその姿に、律の頬が緩んだ。

金を貰ってさっさと退散しよう。
プライドの高い男は、警察に届けたりなどできないはずだ。
悔しがる男の顔を拝めないのが残念だが、それはまぁ仕方がない。
律は男のジャケットの内ポケットから、分厚い財布を引き出した。
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