パラレル小話(セカコイ)

□潜入ガード木佐翔太
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とにかく今回はお前たち2人がメインで、潜入ガードだ。
班長、高野はきっぱりと命令を下した。

木佐翔太は、警備会社「エメラルドセキュリティ」の社員だ。
しかも実際に身体を張って依頼人を守る、警護担当。
警備3班、通称「高野班」に所属している。

木佐のようなタイプが、実際に警備担当になることは珍しい。
あくまで民間の警備会社であるが、格闘になることもしばしばある。
だからほとんどは屈強な男たちなのだ。
身長は175センチ以上、何かしらの武道の有段者。
これが入社の時の規定だ。
必ずしもそれを満たすのが必須ではないが、その資格がない場合は何か特筆すべき技能がある。
ちなみに木佐は、人に聞かれれば170センチと答えているが、実は少々足りない。

また入社の経緯も、木佐は変わっていた。
一応「エメラルドセキュリティ」は、求人募集している。
事務職などの内勤は4月にまとめて採用だが、警護担当は常に人が足りない。
なぜなら優秀なボディガードは、常に引っ張りだこだからだ。
だが実際、警備担当のほとんどは元警察官、または元自衛官。
しかも入社試験ではなく、誰かの推薦で入社する者がほとんどなのだ。
それほど適性を持つ者が少ない、特殊技能を要する仕事である。
そして木佐は警察官でも自衛官でもなかったのに、スカウトで入社している。
これは「エメラルドセキュリティ」でも極めて珍しいことだった。

今回の木佐の任務は、ストーカーに付きまとわれている女子大生の警護だ。
ストーカーを突き止め、もう2度と彼女に近寄らないと誓約させる。
その間、彼女に危害が加えられることがないように、しっかりと守るのだ。
これははっきり言って、楽勝パターンだ。
彼女のプロフィールを見る限り、ごくごく普通の女子大生。
つまり暴力団関係とか、裏社会のようなやっかいな交友関係はない。
あくまでも彼女の知り合いで、ごく普通の一般市民の中にストーカーはいる。
しかも犯行の手口を見る限り、単独犯だ。

ただ1つの難点は、研修を終えたばかりの新人と組まされることだった。
彼の名前は、小野寺律。
珍しく入社試験を受けて、警護担当になった逸材だ。
だが綺麗な顔に似合わず、どうにも血の気が多い。
しかも高野は彼を「トラブルメーカー体質」と評価している。
木佐はこの律をフォローしながら、任務を果たさなければならないのだ。

とりあえず最有力の容疑者はこいつだ。
高野はそう言いながら、ノートパソコンを操作する。
ここはミッションルームと呼ばれる、会議室だ。
木佐と律は並んで、高野は彼らに向き合うように座っている。
そして3人の前には、ノートパソコンがそれぞれ1台ずつ。
高野が画面にデータを呼び出すと、木佐と律のパソコンにもその情報が表示される。

依頼人、小嶋里緒の元カレ。2カ月前まで交際していた男。名前は雪名皇。
高野の言葉と共に、おそらく隠し撮りされたと思われる青年の画像が現れた。
なかなかの美青年なのに、もったいない。
それが木佐の感想だ。
だがもちろんそんなことは口に出さずに「わかりました」とだけ答える。
班長の高野は、ミッション説明中に無駄話をするのを、好まないのだ。

何か、違う気がするなぁ。
空気を読まずにそんなことを言い出したのは、血の気の多い新人だ。
画面の中の雪名という男を見ながら、ブツブツと言っている。
案の定、高野は不機嫌を隠そうともせずに「何がだ?小野寺」と聞く。
だが律はまったく臆することなく「彼はストーカーじゃないと思います」と答えたのだ。

思います、じゃねーよ。確信があるなら断言して根拠を言え。
それができないなら、黙ってろ!
案の定、高野は律を怒鳴りつけた。
律は「はぁ」と曖昧に答えながら、パソコン画面を注視した。

とにかく今回はお前たち2人がメインで、潜入ガードだ。
班長、高野はきっぱりと命令を下した。
木佐は力強く「はい!」と答える。
律は少々納得いかない様子だったが、木佐に倣って「はい」と命令に従った。

潜入ガード。
それこそ恵まれない体格を補って余りある、木佐の特殊技能だ。
今回は血の気の多い新人と、その任務につくことになる。
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