パラレル小話(セカコイ)

□Ghost Waltz
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他の人と一緒に住むことにしました。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。

高野政宗と小野寺律は半同棲状態で暮らしている。
借りているのは2世帯住宅と言われるタイプの家だ。
高野は1階、律は2階に住み、それぞれ自宅で開業している。
2人の職業は特殊だった。

高野の仕事を占い師。
客の未来を占い、アドバイスをする。
実は高野には、未来を見る力などない。
だが高野は人間観察が優れており、客の心を読み、欲しい言葉を察することができる。
後はこれまた得意な話術で、客をいい気分にさせるのだ。
ある意味詐欺とも言えるが、客は満足しているし、意外と繁盛している。

そして律の仕事は浄霊師だ。
成仏できない死者の魂と会話し、慰める。
そうすることで死者と残された者の心を救うのだ。
こっちは高野と違い、本物の能力者だ。
だが正直な上に商売っ気がない律は、いつも損な役回りばかり。
そして儲からない。
だから生活はいつもギリギリで、電話や電気を止められることはしょっちゅうだ。
放っておけば食事さえ満足にとらないことさえある。

高野と律は、一応恋人同士だ。
少なくても高野はそのつもりであり、律を溺愛していると断言できる。
だが最大の悩みは律との温度差だった。
律も高野のことを好きでいてくれるとは思っているが、どうにも自分と同じ熱量を感じないのだ。

理由はわかっている。
子供の頃、霊が自分にだけ見えるとは思っていなかった律は、楽しく霊と会話したそうだ。
周りの人間からはさぞかし奇異な少年に見えただろう。
親ですら、律を気味が悪い子供だと思っていたらしい。
その結果、集団生活ではどこか浮いた存在になってしまったのだ。
親子関係、友人関係さえよくわかっていない律に、恋愛はかなりハードルが高いのだろう。

高野はくじけることなく、律の世話を焼いた。
こうして変則的ではあるが、同じ家に住んだ。
食事の度に律に声をかけ、夜は一緒に眠るようにしている。
こうしてこのどこか浮世離れした青年に、1つ1つ教えていけばいい。
恋愛の楽しさや喜び、切なさや悲しみを。
そうすることで、いつか温度差などないラブラブな恋人同士になれると信じている。

そんなある日のことだった。
相変わらず高野は売れっ子占い師で、客は引きも切らない。
対する律は少ない仕事を安値で、しかも全力でやる。
本物の方が儲けが少ないという理不尽さだが、律は気にする素振りもない。
だがそんな当たり前の日の夕食時、律はとんでもないことを言い出したのだ。

他の人と一緒に住むことにしました。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。
だが律は平然と「だからしばらく留守にします」と言った。
そして律は淡々と箸を進める。
高野が作った心尽くしの夕食が、次々に律の胃袋へと消えていく。

そりゃ別れるってことか?
高野は静かにそう聞いた。
口調は平穏を装っているが、内心はドキドキものだ。
だが律は「何でです?」とキョトンとした表情だ。
別れ話ではないのか。
高野はひとまずホッとして、律が差し出す茶碗にご飯のおかわりをよそった。

ええと、ですね。
昔一緒に仕事をした人が、ちょっと何だかまずいことになってる感じで。
少しの間、一緒に住んでみようかと思いまして。

律の説明に、高野はため息まじりに「あのなぁ」と言った。
圧倒的に言葉が足りないのだ。
昔一緒に仕事をした人とは誰なのか。
まずいこととは何なのか。
そして「何だか」とか「感じ」とか曖昧な言葉が並ぶのはなぜなのか。

まず昔一緒に仕事をした人ってのは誰だ?
高野はまずそれを聞いた。
心に浮かんだ疑問を1つ1つ聞いていくことにしたのだ。
律に説明させるよりその方が早いことは、経験でわかっている。

ええと、美濃奏さんです。
俺と同じで霊が見えるので、それを仕事にしている人です。
見た目はイケメンで、結構モテるんですよ。

高野は舌打ちしたくなるのを懸命に堪えた。
まったく恋人の前で他の男を褒めるなど、論外だ。
だが今は食事中だし、まだ話は終わっていない。
お仕置きと称して押し倒すのは、後回しにする。

それにしても、また何だか嫌な予感がする。
未来が見えない占い師は、恋人が厄介ごとに巻き込まれることを明確に悟っていた。
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