パラレル小話(セカコイ)

□マーメイド奇譚
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★プロローグ・人魚の王様★

なぁ、人間ってさ、俺たち人魚について変な誤解をしてないか?
恋をして、陸に上がった人魚が声を失ってるって?
足を貰う代償に声を差し出した?
王子様が別の姫と婚約しても、真実が告げられずに、ただ泣いてた?
王子様を短剣で刺せばその血で助かるのに、それができずに海の泡になった?
何で人魚がそんな健気なお姫様だと思ってるんだ?

かと思うと「八百比丘尼」なんて話もあったりする。
確か日本とかいう国の伝説だ。
人魚の肉を食べると、不老不死になるとかいうおっかない話。
おいおい、人魚は健気なお姫様って認識なんだろ?
食うんじゃねーよ。

あと人魚の涙が真珠になるってのもあったか?
強欲な人間が真珠目当てに人魚を捕えて、泣かせようとするとかいう話を聞いたことがある。
だけどな、これも嘘。
そんな便利な機能があったら、俺たち普段から泣きまくるぜ。
人間にそれをチラつかせて、言うことを聞かせたりするとかな。
だけど人魚の涙の真珠なんて、実際人間の世界には出回ってないだろ?
そんな美味しい最終兵器なんか、ないんだって。

本当に馬鹿馬鹿しい、人間が勝手に作り上げた妄想。
俺たち人魚は、決してロマンチックなものではない。
どっちかと言えば、野心たっぷりの貪欲な生き物だ。
恋をしたら、婚約してようと何だろうと関係ない。
奪い取って、自分のものにするのが、俺たちの流儀。

さらに言っておくと、別に魔法使いに頼らなくても陸に上がれば人間仕様になるんだ。
足は自分の意志で、魚の形にも人の足にも変幻自在。
水陸両用ってやつだ。カッコいいだろ。
ちなみに食っても、不老不死にはならない。
俺は食ったことないけど(共食いになるからな)、多分普通に魚の味じゃねーの?

あ、申し遅れたけど、俺は一応人魚の王様をやってる。
海の中の世界で、人魚たちの頂点に君臨してるんだ。
人魚は別に群れで生きるわけじゃないけど、ある程度のルールは必要だ。
そのルールを守らせて、海の中の秩序を守るのが俺の仕事ってわけ。

俺は今日4人の人魚を集めて、指令を出した。
ここから一番近い陸地の、人間が統治するとある国。
そこにも王様がいて、その息子の王子が4人いる。
その王子に近づき、誘惑して恋に堕ちるように仕向けること。

人魚っていうのは文字通り、人間と魚の混血なんだ。
基本的には人魚同志の交わりで、子孫はできる。
だけど人間と交わっても子孫はできるんだ。
だからこうしてたまに何人かの人魚を陸に上げて、人間を誘惑させるんだ。

え?何で人魚同士の交わりでもいいのに、わざわざ面倒なことをするのかって?
だって未来に何が起こるかわからないだろ?
例えば何かの病気が流行って、人間の血が濃い方が免疫が高いなんてこともあるかもしれない。
だからときどき人間の血を入れて、多様性を持たせるんだ。
カッコよく言うなら、進化をコントロールするって感じ?

前置きが長くなったけど、これは人間界に恋をしにいった4人の人魚のお話。
王子も4人だから、うまくいけば4組のカップルができる。
ちなみにこれはテストでもあるんだ。
人間を誑し込むのが上手い人魚は、能力が高いってことで評価も上がる。
あ、人魚の世界は完全能力主義だからな。

さてさて、ここまで付き合ってくれてありがとう。
以上で、王様からの説明は終わりだ。
この続きは人魚たちからの報告を聞いてくれ。

それじゃあ、千秋、律、翔太、隆史。
4人とも頑張って、王子様をゲットしてくれよ。
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