パラレル小話(セカコイ)

□スーパー店長横澤隆史
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テメー、どうしていつもコンビニ弁当を食ってんだよ!
横澤は従業員用の休憩スペースで食事をしている青年を怒鳴りつけた。

横澤隆史は大手スーパー「丸川」の都内のある店舗で、店長を務めている。
売り上げを気にして、顧客の獲得に頭を悩ませる毎日だ。
業者との商談や、従業員の指導など、他にも気を使うことは山ほどある。
大学を卒業した時には、まさか自分がこういう道に進むとは思ってもみなかった。

横澤の目の前で弁当を食べているのは、契約する警備会社から派遣された警備員。
彼は店内を客を装って巡回し、万引き犯を見つける、いわゆる万引きGメンだ。
若いけれど優秀で、何人もの万引き犯を捕まえている。
その点は大いに評価するが、少なからず不満もある。
そのうちの1つが彼の食事だ。
ここはスーパーであり、惣菜や弁当も扱っている。
だが彼は頑として、店のものを買って食べることはしないのだ。

だって、俺の口には合わないんですよ。味が濃くて。
万引きGメン、小野寺律はズケズケと文句を言う。
それは確かに当たっていないこともない。
近所に新しいマンションなどが多いせいで、客層が若い。
そのせいでこってりと濃い味の惣菜の方が売れ行きがいいのだ。
それに弁当や総菜は、どうしても作ってから実際に食べるまでに時間が空いてしまう。
保存を考えれば、どうしても味は多少濃い目になる。

まったくどうしてそう反抗的なのかね?
横澤は眉を寄せながら、ひとりごちた。
多少味付けが濃くても、美味いという自信がある。
なのにここまで避けられると、その自信が揺らぐ。
だが当の律は、そんな横澤の心の内などお構いなしに箸を進めている。

律は元々、警備会社で要人警護のセクションに所属している。
ここでの仕事は研修という名目で、出向扱いだ。
万引きGメンの仕事も一生懸命やっているのは認めるが、本意ではないのだろう。
どうにもそれが態度ににじみ出てしまっている。
前任者とは大違いだと、横澤はため息をついた。

また前任者ですか。そんなにその方がいいなら俺と交代させてください。
弁当を食べ終えた律が、ゴミ箱に空き容器を放り込みながら、挑むように横澤を見た。
まったくかわいい顔をしているくせに、負けん気が強い。

あれ?お前、前任が誰だか知らねーのか?
横澤は思わず聞き返した。
そんなことは派遣元の警備会社から聞かされていると思っていた。
だから今まで律にその詳細を説明したことがなかったのだ。

知りませんよ。横澤さんがやたら嫌味っぽく「前任者」を連呼するだけで。
律はどうでもよさそうな口調を装っている。
だがじっと横澤を凝視する瞳からは、知りたいという気持ちが滲み出ている。

じゃあ、教えてやる。その代わり、明日からうちの弁当を食えよ。
そのまま焦らしてやろうかと思ったが、話してやることにした。
勿体をつけるほどの話ではない。
ならばとりあえず、弁当1個分の売り上げになった方がいい。

お前の前任者はな。
横澤は口元に笑みを浮かべながら、口を開く。
心はすでに懐かしい思い出となったあの頃に向かっていた。
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