パラレル小話(セカコイ)

□エメラルドの巫女と愛すべき仲間たち
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神官がそんなに険しい顔をしてはいけません。
美しいエメラルドの瞳の巫女が、困ったような顔をしている。
だが神官と呼ばれた男の不機嫌そうな表情は、緩む気配もなかった。

かつてこの国に、怪盗サーガと呼ばれる盗賊がいた。
彼は富める者、特に悪徳で私腹を肥やした者からしか盗まない。
そして盗み取った金品は、貧しい者たちに分け与えるのだ。
だがこの国に神官と巫女が現れたことで、姿を消した。
政治が正しく行なわれるようになって、食うに困るような困窮者がいなくなったからだ。
怪盗サーガは、義賊としての役目を終えたのだ。
この国の人々はそんな風に思っていた。

だが最近また怪盗サーガを名乗る盗賊が現れた。
彼らは盗みのスタイルを大きく変えている。
以前は警備の隙をつき、その裏をかく頭脳戦を主としていた。
無駄な怪我人も出すことなく、盗みだけを見事にやってのけている。
だが最近現れた盗賊は、正反対だ。
力技の荒っぽいやり方で、人を傷つけることも何とも思っていない強引さだ。

ったく、ふざけやがって。
神官こと高野政宗は、王宮内の神への祈りを捧げる部屋でらしからぬ悪態をついた。
人々は新たな怪盗サーガの出現に恐怖している。
その手口があまりにも残忍だからだ。
高野はそのことに強い怒りを感じていた。

これと狙いを定めると、手段を選ばず持っていく。
相手が金持ちだろうが、貧乏だろうがおかまいなしだ。
盗品も金や貴金属などに限定していない。
さほど価値がなさそうな生活用品まで持ち去っていく。
中にはなんと小さな子供まで持っていかれた家もあったのだ。

神官がそんなに険しい顔をしてはいけません。
美しいエメラルドの瞳の巫女が、困ったような顔をしている。
だが神官と呼ばれた男の不機嫌そうな表情は、緩む気配もなかった。

巫女にはその理由がよくわかる。
この高野こそ初代怪盗サーガのリーダーだったからだ。
その頃、この国は一部の王族と貴族だけが豊かな生活をしていた。
他の多くの国民は皆、その日暮らしの生活で餓死者も多かった。
そんな正義感から来る憤りが怪盗サーガ誕生の理由だった。
だからその名を汚された怒りで、高野の表情は強張っている。

巫女は心を預けた相手の願いに共鳴し、それを叶える力がある。
その相手こそ高野であり、神官を名乗る所以だ。
当然怪盗サーガの捕縛を強く願ったが、それは叶わなかった。
巫女は曇りのない心で願ったことしか、聞き届けられない。
私怨がこもった祈りには共鳴できないのだ。

自分で捕まえるしかなさそうだ。
高野はポツリとそう呟いた。
実を言うと、もうずっと神官として大人しくしていた。
そろそろひと暴れしてやりたいと思っていた。

慎重にして下さいね。
巫女は諦めたようなため息まじりに、そう言った。
エメラルド色の瞳は、この男が言い出したら聞かないことをよく知っている。
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