パラレル小話(セカコイ)
□Ghost Serenade
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いくら嘘でも、言っていいことと悪いことがあるぞ！
吉野はそう叫ぶと、目の前の青年を平手で力いっぱい叩きつけた。
青年は困ったように吉野をじっと見ている。
吉野千秋が浄霊師という青年を訪ねたのは、恋人に勧められたからだ。
最近とにかく身の回りに危険が多い。
街を歩いていたら上から看板が落ちてきたり、無人のバイクが突っ込んできたりする。
もしかして知らないうちに、誰かから何か恨みでも買っているのか？
そう思って興信所に依頼をしたものの、何もわからなかった。
誰かが吉野を尾行しても、怪事件は起こるものの犯人らしき人物は見つけられなかったのだ。
また吉野の周辺をいくら調べても、ここまで恨みを抱く人間は浮かばない。
だがそうこうしているうちに、事態はますますエスカレートした。
駅のホームで突き飛ばされて、危うく線路に転落しそうになったのだ。
それなのにやはり犯人の姿はない。
ここまで来ると、もう異常だ。
何か人ならざる力が働いているとしか思えない。
吉野さんですね。お待ちしておりました。
教えられた浄霊師の自宅を訪ねると、若い男が笑顔で出迎えてくれた。
青年は「浄霊師の小野寺です」と頭を下げると、吉野を家の中へと招き入れる。
後になって吉野は思うのだ。
この浄霊師の青年には、ツッコミどころが満載だった。
ボロボロのそれこそ幽霊でも出そうな家に住んでいること。
モデルのような綺麗な容姿をしていること。
それなのに何度洗濯したが見当もつかないようなヨレヨレのシャツとＧパン姿であること。
服装や生活スタイルは霊能者というよりは、貧乏な学生という感じだった。
それなのにその美貌はひどくアンバランスだ。
だがこの時の吉野には、それを奇妙に思うほどの余裕もなかった。
度重なる不可思議な出来事、しかも何度も危険な目にあっている。
とにかく心身ともに疲れており、憔悴していたからだ。
吉野は何も言わずに、勧められたままにソファに腰を下ろした。
あの、申し上げにくいんですが。
浄霊師の青年は吉野に茶を出してくれながら、そう言った。
そして言葉を捜すように、言いよどんでいる。
吉野さんには若い女性の霊が憑いてらっしゃいます。
お兄ちゃん、死んで！っておっしゃってますので、妹さんなんじゃないかと。。。
出された茶を飲んでいた吉野は、一瞬意味がわからなかった。
だが次の瞬間、叩きつけるように湯飲みを置くと、荒々しく立ち上がった。
俺の妹は生きてる！縁起でもないことを言うな！
吉野は怒りで身体を震わせながら、怒鳴りつけた。
だが浄霊師の青年は「へ？」と一瞬ポカンとした表情になった。
だがすぐに「なるほど。そういうことですか」と１人でブツブツ呟いている。
そのあまりにも飄々とした態度に、吉野はカッと頭に血が上った。
いくら嘘でも、言っていいことと悪いことがあるぞ！
吉野はそう叫ぶと、目の前の青年を平手で力いっぱい叩きつけた。
青年は困ったように吉野をじっと見ている。
やってられない。帰る！
吉野はそのまま踵を返すと、そのまま玄関へと向かう。
浄霊師の青年が「待ってください！」と叫んでいたが、返事などしなかった。
怒りの勢いそのままにドスドスと足を踏み鳴らしながら玄関を出て、バタンと乱暴にドアを閉めた。