パラレル小話(セカコイ)

□Ghost Rhapsody
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横澤さんですね。お待ちしておりました。
ドアから顔をのぞかせた青年の姿を見て、横澤は少なからず驚いていた。
彼が想像していたよりもはるかに若く、美しかったからだ。

横澤隆史は、教えられた住所の前でしばし呆然としていた。
築何年なのか想像もできないほど古く、ぶっちゃけ今にも倒れてしまいそうな木造平屋。
家というよりは小屋と言った方が正しい。
何も知らなければ、野ざらしの廃屋だと思うだろう。
正直言って訪問するのはかなり勇気がいるが、仕方がない。
意を決した横澤がそのドアを叩くと、中から若い男が顔を覗かせた。

勝手な想像で、胡散臭い年配の人物が出てくると思っていたのだ。
だが横澤よりかなり若い美青年は、シャツとジーパンというひどく普通の服装をしている。
イメージとあまりにも違う青年が出てきたことで、横澤はさらに驚いた。

どうぞ、適当に座ってください。
中に通されると、青年は人懐っこい笑顔でそう言った。
だがどこに座れというのだろう?
通されたこの広めの部屋はリビングなのだろうが、ソファには洗濯物が半分を占めていた。
テーブルには使用済みのカップや、コンビニ弁当などの残骸が溢れている。
むき出しの床には、本や雑誌などが散乱している。
どうやら本棚に入らない本を床に積んでいたのが、崩れたのだろう。

生活感があるにしても程がある。
青年の家はその美しい顔に似合わず、とにかく散らかっていた。
その上ギシギシときしむ木の床も怖い。
小柄なこの青年は大丈夫でも、長身の横澤では踏み抜いてしまいそうだ。
とにかく家事全般が得意で綺麗好きの横澤には、耐え難い部屋だった。

ああっと。座るトコないですね。作ります。
横澤は困っているのがわかったようで、青年が慌ててソファの洗濯物を手でかき集め始める。
だが横澤は「もういい」と言って、踵を返した。
こんな頼りなさそうな青年に相談しても、何かできるとは思えない。
そもそも霊能者など信じていないし、今日だって気が進まなかったのだ。
恋人があまりにも心配するから、渋々来ただけだ。

待ってください!と青年が慌てた声を上げた。
それはそうだろう。彼にしたら横澤は貴重な金ヅルなのだろうから。
横澤は構わず玄関へと歩を進めようとした。

女の人の霊が見えます!主人と娘のことで話があるって言ってます!
青年の叫ぶような声に、横澤は足を止めて振り返った。
思い当たることは大いにある。
横澤の恋人は妻に先立たれた男で、娘が1人いるからだ。
だがすぐに思い直した。
ここへは予約をして、つまり事前に名前や素性を明かしているのだ。
この青年は横澤のことを予め入念に調査していたに違いない。

俺のことを事前に調べてやがったな?このインチキ除霊師!
横澤は声を荒げると、ズカズカと青年の眼前まで戻り、襟首を掴んだ。
だが青年は少しも慌てることなく「あ〜やっぱりそう来ますか」と苦笑した。
どうやら横澤のような反応には、すっかり慣れっこになっているようだ。
ゆっくりと横澤の手を掴んではずし、シャツの襟元を調える。

小野寺律です。ちなみに除霊師じゃなくて浄霊師ですから。
青年は悪びれた様子もなく、ニッコリと笑う。
横澤は怒りに頬を引きつらせながら、無駄に爽やかな笑顔を睨みつけた。
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