短編(黒バス・木黒)

□最初から勝ち目なんかなかった
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「オレと付き合ってくれないか?」
本当なら、すごく嬉しいその告白だった。
この人のことは大好きだ。
だけどボクには、その申し出を受ける資格はない。

1年先輩のこの人は、今日、誠凛高校を卒業する。
ボクたちは卒業式の後、他に誰もいない部室にいた。
妙に大人びた風貌のこの人の制服姿を見るのは、今日で最後。
必死に涙腺の決壊を堪えていたボクに、この人はあろうことか恋の告白をしたのだ。

「無理です。」
ボクは必死に声に感情を込めないようにして、そう答えた。
そうしなければ、この人への恋心が零れ落ちてしまいそうだから。
一瞬「どこへ?」なんてお約束のボケをしようかと思ったけど、さすがにそれはやめた。
だって真剣に告白してくれたんだ。
茶化したり、誤魔化したりするようなことはできない。

「・・・即答だな。考える余地はないのか?」
「まったくないです。すみません。」
静かな部室に響く、大きなため息。
ああ、申し訳ない。
ボクなんかのために、この人につらい思いをさせている。

「わかった。悪かった。元気でな、黒子。」
心優しい人が、ボクの肩をポンと優しく叩く。
だがすぐに背を向けてしまった。
そのままこちらを振り向かずに、手を振りながら部室を出て行く。
ドアがパタンと閉まられた瞬間、ボクはその場にガクンと膝をついた。

ああ、たまらない。
ひょっとしたら、もう2度と会わないのかもしれない。
あの人の記憶の最後のボクは、きっと冷たいヤツだろう。

そう思ったら、もう止まらない。
ボクは奥歯を噛みしめながら、両手で口を押さえた。
ここから遠ざかるあの人に声を聴かれてはならない。
だけどこっそり涙を零すくらいなら、多分罰は当たらない。

木吉センパイ。
ボクは心の中であの人の名前を叫びながら、声を殺して泣いた。
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