短編(アイシ・十セナ,ムサヒル)

□勝負はまだ始まったばかり
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鈴音がセナを抱き締めて、何かを言っている。
十文字は一瞬、心の底から凍りついていくような危機感を感じて立ち尽くした。

東京都大会の3位決定戦は、関東大会の最後の切符をかけたもの。
絶対に負けられない試合だった。
最後の最後、フィールドを光速で走り抜いたセナの鮮やかな逆転のTD。
試合後のロッカールームは大いに沸き、ついにはヒル魔が樽で酒をブチまけている。
十文字は辺りを見回して「あれ?」と思う。
勝利の立役者であるアイシールド21ことセナの姿が見えないからだ。

十文字はセナを捜して、ロッカールームから通路へ出た。
そしてその光景を見て、足を止めた。
通路では、セナと鈴音が抱き合っていたからだ。
セナが鈴音に抱きついているのを、鈴音が受け止めているように見える。
まるで想いが通じ合った恋人同士のような様子に、言葉もない。

「ねぇ悪いけど、手伝って。セナ、気を失っちゃってるの。私じゃ運べなくて」
こちらに背を向けている鈴音が十文字に言った。
十文字が2人に近づくと、状況がわかった。
ロッカールームに行く前に、セナは力尽きてしまったのだ。
居合わせた鈴音はとっさにささえたものの、自力では動くこともセナを運ぶこともできない。
だから誰かが来るのを待っていたのだ。

セナの背後に回った十文字を見て、鈴音が微かに息を飲んだ。
初めて声をかけた相手が十文字だとわかったようだった。
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