パラレル小話(セカコイ)
□クラブ「エメラルド」へようこそ
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客、減ったなぁ。
クラブ「エメラルド」のホスト、翔太は開店したばかりの店でため息をついていた。
クラブ「エメラルド」が、他のホストクラブと違うところはいくつもある。
一番の特徴は、ホストクラブの名物であるシャンパンコールがない。
お客様にはゆったりした空間で、おしゃべりを楽しみ、くつろいでほしい。
それが店長、横澤の方針だからだ。
そしてそれと同じくらい変わっているのは、男性客が多いことだった。
もちろん女性客の数の方が圧倒的に多い。
だがこういう店としては、異常とも思える人数の男性客も来店する。
理由は男受けするホストが多いのだ。
翔太もその１人で、男性客のほぼ半数は翔太を指名する。
だが最近、翔太の指名客は減りつつある。
理由は最近入ったばかりの新入りホスト、律のせいだ。
男性客の多くがあの美しい青年に興味を持ち、自分のテーブルに呼ぶ。
その結果、翔太の指名客がごっそりと律に移ってしまったのだ。
元々律は嵯峨が拾ったホームレスだが、きっと訳ありなのだと思う。
なぜならいちいち所作が上品なのだ。
ただ座っているだけでも姿勢もいいし、接客も不器用だが誠実で、笑顔も初々しい。
おそらくは育ちがいいのではないかと、翔太は予想している。
それに引き換え俺は、と翔太は自分の身の上を振り返る。
実は売春スレスレの過激な営業で、前の店を追われた身だった。
別のホストの客を寝取ったと修羅場になったのだ。
店長の横澤はそんな翔太を、条件付きで採用してくれた。
うちの店では、身体で客を取り合うような真似はするなと。
とりあえず稼ぐために横澤の条件をのんで、クラブ「エメラルド」に来た。
シャンパンコールもなく、客を寝取ることも禁止の礼儀正しい店。
こんなヌルい店は自分の居場所ではないと思う。
ましてやあの新入りに売り上げをごっそり取られてしまった。
さっさと次の店に移るのが得策だ。
だが翔太には、それが出来ない理由があった。
翔太の視線の先には、同じくクラブ「エメラルド」のホスト雪名がいた。
この店に来た初日に、翔太はまるで王子様のように美しい雪名に一目惚れしたのだ。
だけど翔太はその想いを懸命に隠して、同僚として接している。
まるで初恋の乙女のように、翔太は何も出来ずにいた。
客に対してはガンガン攻めるのが、まるで嘘のようだ。
どうせフラれるに決まってる。
さっさと次の店に移って忘れてしまえばいい。
そう思うのに、翔太は何も出来ない。
そしてまた今日も翔太は、クラブ「エメラルド」のフロアに佇むのだ。