パラレル小話(セカコイ)

□スーパー店長横澤隆史
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俺が「エメラルドセキュリティ」に入社したのは、今から3年前だ。
横澤はおもむろに切り出した。
それを聞いた律は「えええ??」と目を剥いた。

3年前って!横澤さん、何歳なんですか?
驚く律に、横澤は「そこかよ」とムッとした。
てっきり「エメラルドセキュリティ」に在籍していたことに、驚いたと思ったのに。

お前より2歳年上。
しぶしぶ答えた横澤に、律は「うっそぉ!」とまた声を上げる。
確かに老け顔の横澤と童顔の律が並ぶと、確かに2歳差には見えないだろう。
律はブツブツと「じゃあ木佐さんより年下?」などと呟いている。
横澤は憮然とした表情で、ゴホンと咳払いをした。
出鼻をくじかれた上に、なんだか妙に馬鹿にされた気分だ。
だが横澤は何とか気を取り直して、再び話し始めた。

社内研修を終えた横澤が派遣されたのが、ここスーパー「丸川」だった。
律のように万引きGメンとして、来たのではない。警護だ。
当時経営不振のために、大量に社員をリストラをした会社があった。
その会社の社長のところに脅迫状が届いたのだ。
お前もお前の家族も皆殺しにするという物騒な内容だ。
そしてその会社の1人息子が、このスーパーでアルバイトをしていたのだ。

いいなぁ。初仕事から警護かぁ。
律が不満そうに横澤を睨んでいる。
まったくこの新人は、先輩に対する敬意というものはないのか。
横澤はフンと鼻をならすと、また話し始めた。

横澤は客を装って、店内で警護をしていた。
当時の横澤は、不満だった。
大手企業の息子なのだから、経済的に不自由とは思わない。
脅迫状が届いているような物々しい時期に、アルバイトなど休めばいいではないか。
だが社長宅は、甘やかす家ではなかった。
自分の小遣いくらい自分で稼げという教育方針だったのだ。
そして脅迫に屈して生活をスタイルを変えるなど、プライドが許さない家なのだ。

新人の横澤の警護は、毎日彼がバイトをする数時間だけだった。
店内をそれとなく警戒する横澤は、別のことに気が付いた。
それは万引きだ。
時折、客の中に怪しげな挙動の者がいる。
それを警戒して監視すると、それはだいたい襲撃者ではなく、万引き犯だったのだ。
横澤はそれを店の者に通報する。
万引き犯は捕まえても捕まえても、また新手がやってくる。
まったくイタチごっこだ。
期せずして横澤は、万引きGメンの仕事をしていたのだ。

そこから万引きGメンが新人研修になったんだ。
挙動不審な人間をチェックする目を養うのは、警護の役に立つからな。
横澤は尊大な態度で言い放つ。
だが律は相変わらず不満そうな表情だ。
アンタのせいで、万引きGメンやらされてるのかよ?
無言でもその目が、雄弁にそう語っているのだ。

横澤さんは、どこの班だったんですか?
ふと思いついたように、律が聞いてきた。
「エメラルドセキュリティ」警護部の実行部隊は数人ずつの班に分けられている。
律が所属するのは、高野班。
班長の高野と副班長の羽鳥、木佐と美濃と律の5人だ。

俺か?桐嶋班だ。
横澤は一瞬躊躇ったが、そう答えた。
その名を口にするだけで緊張し、心なしか声が震えた気がする。
不自然ではなかったかと律の表情をうかがったが、不審に思った様子がないのでホッとする。

桐嶋班班長、桐嶋禅。
それが横澤の恋人であり、横澤がスーパー店長になるきっかけになった人物なのだ。
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