パラレル小話(セカコイ)

□Ghost Serenade
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まったく何だよ、あの浄霊師!
もう帰宅してからかなり時間が経っているのに、恋人はまだ怒っている。
だが羽鳥は恋人から伝え聞いた浄霊師の言葉に、一抹の不安を感じていた。

羽鳥芳雪は恋人である吉野の身が心配だった。
とにかくここ最近、吉野の周りにはトラブルが多いのだ。
家にいても道を歩いていても、何かが飛んできたり落ちてきたり。
とても偶然では片付けられない。
それにどうも生身の人間の仕業ではなさそうだ。

そこで占いを生業としている友人、高野政宗に相談した。
吉野はその高野が紹介してくれた浄霊師の家に出かけたのだ。
本当は羽鳥も同行したかったが、浄霊師は相談者1人で来て欲しいと言ったそうだ。
初対面で2人以上の人間と会うと、誰に憑いている霊なのかわかりにくいのだということだった。
恋人が心配な羽鳥は、吉野が帰宅した時間を見計らって吉野の家に駆け込んだ。
そこで延々と吉野の怒りをぶちまけられることになったのだった。

妹の霊だなんて、シレっと言いやがったんだ。千夏は生きてるっつうの!
仮に死んでたとしたって、俺を恨んで祟るようなヤツじゃねーし!
いくら文句を言い連ねても、吉野の怒りは静まらないらしい。
吉野兄妹はケンカはよくするようだが、何だかんだで仲がいい。
吉野としては、かわいい妹のことを侮辱された気がするのだろう。
その浄霊師が適当な嘘を言っていると思っているようだ。

だが羽鳥には一概に嘘だと言い切れない気がした。
吉野には内緒だが、羽鳥は千夏から「好き」と告白された。
もちろんことわっている。
羽鳥は千夏の兄である吉野と付き合っているのだから。
さすがに本当の事は言いにくかったから、ただ「好きな人がいる」とだけ言った。
吉野のまわりで怪事件が起こるようになったのは、その直後だった。

もっと言うなら、羽鳥は真っ先に千夏を疑ったのだ。
だが実際のところ一連の事件は人間に、ましてや女の子にできる事ではない。
だから千夏への疑念は、誰にも打ち明けることなく心の中で封印していたのだ。
ここへ来てまた千夏の名を聞かされると、もしかしたらという気持ちになる。

なぁ一応、千夏ちゃんに確認してみたらどうだ?
どうにも気になる羽鳥は、吉野にそう切り出してみた。
だが吉野は「何でだよ?関係ないだろ!」と怒りモード全開だ。
どうやらもうこの話題を続けるのは、無理なようだ。

それにしてもその浄霊師とは、何者なのだろう?
高野に相談したとき「そういう問題に打ってつけの浄霊師がいる」と言われた。
思わず「除霊師?」と聞き返したら「除霊じゃなくて浄霊だとさ」と笑っていた。
よくわからないが、要するに死んだ人間の魂−霊に関するエキスパートなのだろう。
だがそんな人物が、なぜ吉野の妹の存在を指摘したのだろう?
本物の霊能者であるかどうかはともかく、千夏が羽鳥に告白したことは吉野でさえ知らないことなのに。

マジで信じらんねーよ!人の妹を死人にしやがって!
吉野は未だに怒り冷めやらぬようで、ブツブツと文句を言い続けている。
浄霊師とやらに会った方がいいかもしれない。
羽鳥は怒る吉野に相槌を打ちながら、内心秘かにそう思った。
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