短編(アイシ・ヒルセナ)

□あとの祭り
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車の揺れにあわせてセナの身体がガクンと揺れて、ずるずると崩れた。
ヒル魔は諦めたようにはぁぁとため息をついて、セナの身体を胸の中に抱え込んだ。
セナは何の夢を見ているのか、幸せそうな顔で寝言を繰り返している。
ヒル魔さん、クリスマスボウルに、ムサシさんも。
ムサシはそんな単語の断片を聞きながら、苦笑する。

ムサシは横目でチラリとヒル魔とセナを見た。
ヒル魔が黙って消えたセナを見つけるのは大変だったはずだ。
情報と黒い手帳と奴隷を駆使したのだろう。
それにムサシに車を出させるときのセリフ。
悪りーけど、車出してもらえねぇか?
いつもは命令口調のヒル魔がムサシに「お願い」したのだ。
これほどヒル魔を翻弄するヤツは多分この世界でたった1人。このチビだけだ。

後ろの荷台が騒がしい。かなりの大声の英語の会話が聞こえてくる。
土下座のやり方がどうとか言ってるぜ。ヒル魔が眉根を寄せながら通訳した。
あ?土下座?とムサシが怪訝な声で聞き返す。
どいつもこいつも何やってんだか、ヒル魔がうんざりした様子で言った。
でも。そんな言葉とは裏腹の優しい手付きでセナの髪を撫でる。
可愛くてたまらねぇんだろ、そのチビが。
ムサシは何も気がつかない振りで、真っ直ぐ前を見ながら軽トラを操る。
その目の端で朝陽を照り返したヒル魔のピアスが光った。

【END】
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