5.魔導書「血霜」



カードショップ「プラネット」の代表者、二丈咲季。岩石族と特殊召喚がメインのデッキを使うようだ。
その彼女が相棒と呼んだモンスター、オートマター。ステータスが高く、専用装備を持つカード。

「知らない物を見るってのは、こんなに楽しいのね」

山狗が私の中に眠っていた、それを呼び覚ましてくれた。死力で戦う楽しさ、勝ちたいと思う願い。

「光栄だなぁ、そんな風に言ってもらえると。
 さて、私のターンを続けるよ」

二丈の場はモンスターが3体、私の場は1体。ただ彼女の内2体は、私のマジカライザーより攻撃力は低い。

ただその低さが、今回ばかりは問題ね……。

「行くよバトルフェイズ! まずは《グレープ・ロック》で攻撃ッ!」

「また特攻……!」

グレープ・ロックは戦闘破壊された時、生け贄を捧げる事で3体ものトークンを作りだすモンスター。
しかしこの状況でまだトークンを召喚……何かしてきそう。

「《グレープ・ロック》玉砕ッ! この瞬間《小石トークン》を生け贄に捧げ、
 私のフィールドに3体《小石トークン》を守備で特殊召喚するよッ!」

小さな欠片となったブドウ岩。しかし命はあるらしく、カタカタと動き二丈の下へ。

「行くよ遊菓! 《オートマター・スズラン》で《スター・マジカライザー》を攻撃!!」

「リバースカードオープン! トラップカード《魔力の筒‐マジカル・シリンダー》!!」

宙に赤紫の大きな円柱が浮かび上がり、スズランとマジカライザーの間へと割り入る。
とはいえそれは筒、1度停まったもののスズランは、地を蹴り勢いよくその中へ。

「《魔力の筒》は相手モンスター1体の攻撃を無効にし、その攻撃力÷500分の魔力カウンターを、私のカードの上に置く!」

筒を抜け出たスズランが着いた先は、さっきまで居た二丈の場。
さらに何時の間にやら現れていたもう1本。私のマジックショップの上にその筒が来ると、眩いばかりの魔力を降り注いだ。

スズランの攻撃力は2200。端数切り捨てで、魔力カウンターが4個。その光の先にショップに乗った。

「むッ、やるなぁ……」

ショップに置ける魔力カウンター数に上限はない。
しかし結局はフィールド魔法、破壊されやすいカードだ。

「エンド前に……と。手札から永続魔法《報酬召集》を発動するよ。
 これは、私のスタンバイフェイズに1度生け贄召喚を行うカード。
 行った場合はカードを1枚ドローし、行えなかった場合は破壊する」

「召喚とドローの加速……!?」

あれが狙いのようね。でも魔法カードの発動により、魔力カウンターがショップに1つ加わったわ。
こっちの狙いにも近づきつつある。ただ後から攻める事になるのは、おそらく私ね。

「ターンエンドだよ」



二丈 LP3500 手札1枚
MM
MMMM

F6

遊菓 LP3500 手札3枚




「私のターン、ドロー!」

やっと来た、あの大会以来デッキに入れ始めた、このカードが。

「行くわよ! 手札から《魔法図書館の精霊》を召喚ッ!!」

ポンッ、と場に出る図書館の精霊。その姿はつぶらな瞳を持つ球体で、
攻撃力は800しかないレベル3の天使族モンスターだ。

「バトルフェイズ! 《スター・マジカライザー》《図書館の精霊》で
 《小石トークン》2体を攻撃するわッ!!」

所詮は欠片、2体のモンスターの攻撃にあっさりと小石は砂に。

「おッ、好戦的だね」

「生け贄にされるのは目に見えてるじゃない。私はリバースカードを1枚セットし、ターンエンド。
 そしてエンドフェイズに《魔法図書館の精霊》の効果を発動させるわッ!」

フィールドの精霊はフワフワと飛びながら、地へと自身に似た人形を投げる。
袋に綿を詰め込んだだけのようなそれが地面に着くと同時に、逃げ込むようにして私のデッキに飛び込む精霊。

「《魔法図書館の精霊》をデッキに戻し、私のフィールドに戦闘破壊されない
 《お留守番人形トークン》を1体、攻撃表示で特殊召喚するわッ!」

「攻撃力0っスか……!?」

「はは、あれじゃサンドバックだよ」

「ふふん、ターンは終了よ。二丈」

「行くよ私のターン、ドロー! スタンバイフェイズに《報酬召集》の効果が発動するよ!
 《小石トークン》を生け贄に捧げ、手札からモンスター召喚ッ!!」

早速使ってくるか……!

「出でよ《アーティファクト・ゴーレム‐ソーディアン》ッ!!」

召喚と同時に霧のようなモノが辺りを覆う。その中央からは赤い1点の光。目。
霧が晴れた時に見えたのは、スズランと同じサイズで同じ人型の、細身のロボット。

そしてこれもオートマターと同じように、身体の質感は石のそれ。

「そしてメインフェイズ! 《ソーディアン》を《オートマター・スズラン》に装備するよッ!」

「装備ッ!?」

ソーディアンがその形を変える。足は柄と成り、背甲と椀部が剣の姿へと変わった。
そしてスズランの両手に渡る、身の丈2倍はあるその大剣。

「《ソーディアン》を装備した事により、《スズラン》の攻撃力が2500ポイントアップ!!」

オートマター・スズラン ATK2200→4700 DEF2400→1900

「攻撃力4700……!!」

「ま、《ソーディアン》が攻撃される時、その攻撃力から守備力が引かれるけどね。
 たがしかしッ! 《スズラン》が破壊される時、代わりに《ソーディアン》が破壊されるよッ!」

「……流石相棒ね、強いじゃない」

「攻撃力4700……遊菓さんのライフは3500で、場には攻撃力0の《人形トークン》……」

なんか情けない声を百合が出してるわね……。

「行くよ遊菓! 《スズラン》で《お留守番人形トークン》を攻撃!!
 これで終わりだよッ!! マジック・アクト・スラッシュッ!!!!」

無表情の石の人形が、二丈の声と共に猛然と突撃を掛ける。

大振りで上から降ろす大剣の迫力、斬られるというより叩き潰される。
そしてその攻撃、これが通れば、負ける……!

「当ッ然通さないわッ!! 速攻魔法《アブソープション・プロテクト》発動!!
 私のフィールド上モンスターを全て守備表示にするッ!」

そして、アブソープション・プロテクトの更なる効果が発動する。
二丈と私のフィールドから2本ずつ魔力の帯が伸び、私のモンスター達を包む。

「全てのフィールド上で表になっている魔法カード1枚につき、
 私の場のモンスターの守備力は500ポイントアップするわッ!」

装備カード状態になっているソーディアンも装備魔法として数え、計4枚。
2体のモンスターの守備力は、ターン終了時まで2000ポイントアップする。

精霊 DEF0→2000 マジカライザー DEF1500→3500

ま、どっちみちトークンは戦闘破壊されないから、オマケみたいなモノね、今は。

「ふふん、残念だったわね!」

「くッ……モンスターをセットして……エンドだよ」

「二丈のエンドフェイズ時、デッキの《魔法図書館の精霊》の効果が発動するわッ!!」

落ち込んだように伏していた、二丈の瞳が私を射ぬく。その顔には驚きの色が。
私も、山狗との戦いではあんな顔してたのかもね。

「フィールドの《お留守番人形トークン》を破壊し、デッキから《魔法図書館の精霊》を特殊召喚!
 その時デッキから《書》と名前につくカードを1枚選択、手札に加えるッ!!」

「サーチカード! あれが遊菓さんが加えたカード……!」

そう、ちょっとした山狗のパクりね。状況に合わせ戦う、その戦法は私のデッキにも合う!

「私はデッキから《術式変換の書「血霜」》を手札に! そして私のターンよ、ドロー!!
 二丈、このターンでアンタには負けて貰うわッ! まずはスタンバイフェイズに《マジカライザー》の効果を発動!」

ここまで守り続けたスター・マジカライザーは、ただの壁でもアタッカーでもない。
星型の光を放ち、墓地の魔法へと自らを変えるその能力は、私が勝利を手にする為の布石!

「《スター・マジカライザー》を生け贄に捧げ、墓地の《アブソープション・プロテクト》を手札に戻すッ!
 メインフェイズに《図書館の精霊》も生け贄よ! モンスター召喚、《ブラック・マジシャン・ガール》ッ!」

私の相棒、魔術師の弟子。彼女の力を最大限に引き出す事で、勝ちを手に!

「マジックショップ上の魔力カウンターは7個。それを3つ除外しカードを発動ッ!」

魔力の塊が3つ、私の右手の周囲へと集い、踊るように廻る。

「《魔力の爆発‐マジック・バースト‐》発動! 《BMG》を生け贄に捧げ、
 《ブラック・マジシャン・ガール バーストLV3》をエクストラデッキより特殊召喚ッ!」

「……始めてみたよ、そんなカードは!」

デュエルは奥が深い、だからこそ面白い。

「まだ行くわよ! 装備魔法《術式変換の書「血霜」》を《BMG》に装備ッ!
 このカードは特殊な装備カード。装備モンスターには何の影響も与えないからね」

ブラック・マジシャン・ガールが手に持った魔導書。青と白のカバー、流れる赤のライン。
魔法使いにしか使いこなせない、魔術の式を別の魔法力へと変える本。

「《術式変換の書「血霜」》は、私が魔法カードを発動した時に魔力カウンターを
 2つ場から取り除く事で、その効果を反転させる力を持つ魔導書ッ!!」

「力を、反転……!?」

「手札から速攻魔法《アブソープション・プロテクト》を発動ッ!!
 発動時に魔力カウンターを払い《「血霜」》の効果を使うわッ!」

ブラック・マジシャン・ガールが魔導書を片手に、呪文を唱え出す。
力を集め、与え守る魔法。それはその術式を変えられ、集められた魔力で力を消し飛ばす魔法へと変化を遂げる。

「《アブソープション・プロテクト》は効果反転により、相手のモンスターを全て攻撃表示にッ!!
 更にフィールド上の魔法カード1枚につき、相手モンスター全ての攻撃力を500ポイント下げるわッ!!」

「まずいよ……!? リバースモンスターは《ナイトメア・ゴーレム》……!!」

フィールドの表側魔法カード、マジックショップ、血霜、報酬召集、そしてソーディアン。
更にアブソープション・プロテクトも加わり、計5枚!

スズラン ATK4700→2200 ゴーレム ATK 800→ 0

「このターン! 私が最後に使う魔法はコレよッ! 《拡散する波動》発動ッ!!
 《ブラック・マジシャン・ガール バーストLV3》はこのターン、相手フィールド上モンスター全てに攻撃をするッ!!」

召喚してから計3枚の魔法カードの発動。魔力カウンターが3つ乗り、BMGの攻撃力が上がる。

ブラック・マジシャン・ガール ATK2300→2500→2700→2900

「行くわよ二丈ッ!! 《ブラック・マジシャン・ガール バーストLV3》の攻撃ッ!!」

「《スズラン》の攻撃力が《ソーディアン》の効果で下がる……!」

スズラン ATK2200→300

これで全てのモンスターの攻撃力は低レベルのそれに。そこに与える全体攻撃。
魔力に波動を加えた、黒魔術‐黒の燃焼。響き渡るのは高熱爆破の衝撃波。

「喰らいなさいッ!! ブラック・バースト――――バーニング・ウェイブッ!!!!!」

「あぁうッ!!」

オートマターとゴーレムが吹き飛び、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃、
そのダイレクト・アタック2回分に匹敵するダメージが二丈を襲った。
彼女のLPでは耐え切れられないそれ、0と示す相手ライフを表示する電子枠。それは確実に、私の勝利を意味していた。

「私達の勝ちねッ!!」




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