最初はなんとなくだった。なんとなく、始めた。
なんか凄い流行ってたし、周りでもやってない方が珍しかったゲームだから。

気付いたらハマってた。お気に入りのカードも出来て、それを中心にデッキを組んだ。
女子高生ながらカードショップに入り浸るのはどうかとも思ったが、その店での友達も居て、中々縁は切れなかった。

気付いたら慕われてた。まぁ先輩ってのもあるんだろうけど、
デッキにテーマの形が付いて以来、負け無しだったし。

そして気付いたら――――



 『戸蘭市デュエルモンスターズ大会ッ! 優勝は……真中遊菓ァ〜〜〜〜〜〜ッ!!』



優勝してた。








遊戯王
デュエルモンスターズ
MG


「マジシャン・ガール」






1.スタート





「凄いですッ! ホントに優勝しちゃうなんてッ!」

目をキラキラと輝かせながら、百合とシブが駆け寄り、私以上に喜んだ。

「まぁ……偶然でしょ」

「んな事ないっスよ! 決勝ですら圧勝してましたもん!」

当然よ、あのレベルの相手じゃあ……とは言わない。
しかしながら私は大人だ。偶然、という都合の良い言葉を選んだ。

「それにしても……アンタ達は弱すぎでしょ?
 シブは1回戦、百合は準決で敗退なんて」

2人は私のホームであるショップの常連。……まぁ3人しかいないけど。
兎角、優勝者と同郷の出身者だ。もう少し健闘してもおかしくない。というか普通そうだ。

「そんな事言われましても……」

「……私、頑張ったよね?」

百合がシブに聞く。頑張りましたよ!と返され、小さく彼女は喜んだ。

「私はてっきり、決勝は百合とやるもんだとばかり思ってたけど」

「むむむ、無理ですよ私なんかじゃッ……! 第一、この大会も栄誉あるんですよ?」

「ふーん……」

「ふーんてそんな……」

大会、というのには興味がなかった。ショップにも客は来たし、
それとデュエルするだけでも十分に、私は楽しめていたから。

今回の大会には、2人に無理矢理出さされたようなもの。
それで優勝したんだし、あながち私にも実力はありそうだけど。

「遊菓さん」

いつもの呼ばれ方だけど、シブよりも低い声に咄嗟私は振り向いた。
そこにはスーツにサングラス、という出で立ちの男性が1人。

「……なにか?」

「優勝、おめでとうございます」

「……はぁ」

なにやら変な人に絡まれたぞ。

「貴女さえよければ、来週に童実野市で行われる大会に出てみませんか?」

「……童実野市?」

私が住み今もいるココ戸蘭市の隣の隣の隣、くらいにある市だ。
確かそこは、過去に『デュエルキング』が生まれる大会があった場所。

そして今もこのゲーム……デュエルモンスターズに馴染み深い、KCの本社があった筈。

「来週の水曜日、祝日ですので学校はお休みでしょう。
 朝10時より、童実野市メインホールにてデュエル大会があります」

「そこに出ろって?」

後ろでは2人がなにやら騒いでいるが、私は……。

「いえ、貴女さえよければ、です。
 この大会には各地の実力者が集まります。今日決勝での貴女のデュエルを見て、
 遊菓さんにはその権利があると確信致しましたので」

あの程度の決勝で何を確信するのか、全くもって疑問だ。

「こちらを」

「……カード?」

男性は持っていた鞄より1枚のカードを取出し、私に差し出す。
渡しされたカードの裏面はいつもゲームで使うモノと同じだが、表が違う。材質もプラスチックだ。

「そちらを受付に渡して貰えれば、大会に出られます」

「……そんな簡単に?」

「はい。私から話は通しておきますので。
 出て頂けるのであれば、20分ほど前に来られれば充分です」

「……ふーん。まぁ、考えとくわ」

「ありがとうございます。それでは、失礼致します」

そう言って一礼すると、男はツカツカ歩いて去っていった。

直後、後ろから誰かに抱きつかれる。
抱きつかれ、乗られ、耳元で叫ばれた。

「スッッッゴイですよ遊菓さんッ!!!!」

「……百合……重いからどいて」

百合は普段こそおとなしいが、感情が入ると途端に大袈裟になる。
私が知らない事も数多く知っているのだが、何分その情報を誇大されるんじゃあ頼りにならない。

「童実野市の大会ですよッ? 凄いに決まってますッ!!」

だから、これも怪しいものだ。
今時カードショップなんて珍しくないし、童実野市なんて場所なら尚更だろう。

「そういう大会じゃないっスよ! 絶対ッ!」

まぁ確かに、ホールを貸し切ってやるレベルらしいし。
でもそれならそれで……

「普通、ココの主催者から話来ない? 私なんかBOX貰っただけよ?」

おめでとう、賞品はこちらです、おめでとう。
くらい簡素なモノだった。所以、感慨深さも特にない。

「うーん……もしかしたら、秘密裏に選手を選んでるんじゃないですか?」

「私は『来ても来なくてもいい』って言われたのよ?
 見物客に、誰も来ませんでしたー今日は解散でーす、なんて言えないでしょ」

そこまで言うと、2人はうーんと唸り黙り込んだ。
でも直ぐにシブが口を開く。1番年下ながら、百合よりも冷静で頭も切れる中坊、シブ。

「……確かに言われれば怪しいスけど、どのみち出てみれば分かる事じゃ?」

「私が危険な目にあったら助けてくれる?」

「デュエルも喧嘩も、遊菓さんのが僕より強いっスよ」

そう言って笑った。私の喧嘩なんて見た事あるのか、お前。

「どうでもいいけどさ、アンタ本名なんだっけ?」

「えぇ……」






「おぉ……ココが童実野市……!」

「百合……恥ずかしいから写メ撮るのやめてね」

結局私はこの場所に来ていた。
大会での優勝賞品も大した事なく、あの日からデッキも変わらず。

それにしても賑わっている。駅前になんか居られず、私は百合の手を引いて脇のベンチに腰掛けた。
いくら祝日とはいえ、こんなに人が居るものかしら?

「シブ君が案内してくれるんですよね?」

「その筈だけど……居ないわね」

シブはよくココに来るらしく、ホールの場所も知っていた。
駅前で待ち合わせをし、先に着いてる、ともメールを貰った。

しかし辺りを見回すも見当たらない。何分人が多すぎる。

「あッ、遊菓さん」

隣で百合が、私の服を引っ張った。
彼女が指差す方を見れば、あの冴えない男が駆けながら手を振る姿が。

「おはようございまっス!」

「おはよう〜」

「よく寝れましたか? 遊菓さん」

「私が緊張なんてすると思う?」

「それもそうっスね!」

腹の立つリアクションね。

「ねぇねぇシブ君、童実野市っていつもこんなに人が居るの?」

「いやぁその事になるんスけど……」

シブが言いにくそうにチラッと私を見ながら、とりあえず行きましょう、と先導しだす。
小首を傾げる百合と共に、私達は童実野市メインホールを目指した。





「ここが今日あるデュエルモンスターズの大会会場っス」

「うわぁ……大っきい」

「しかも人が並んでるわよ? どうなってんのかしら」

「……実は遊菓さん。やっぱり遊菓さんが言う通り、嘘臭い話みたいっス」

観客入場口と、選手入場口。2つに別れる入り口を前に、シブが話出した。

「今日の大会、凄い大きなモノらしいっス」

「でしょうね……この賑わいっぷりじゃあ」

「そんな大会に出るか出ないか、なんて選手呼びますかね?」

「……ま、とりあえず行ってみましょ。もしかしたら面白いかも」

「私達は並ばなきゃいけないんじゃ?」

百合が観客入場口前の人群れを指し言う。

「大丈夫でしょ、ツレだし。まぁ観客席には入れて貰えないかも、だけど」

そう言い、1人私は歩き出す。すぐに2人は着いてきた。

なんか気分が良い、と言う百合。
確かに、こんな並んでる人達の横をスイスイ行くんだから、気持ちはわかる。

「こちらは選手専用受け付けとなっております」

空く入り口を抜けると、受け付け嬢さんが言った。

私は財布に挿していた先日のカードを取出し、彼女に渡す。

「あぁ、特別招待選手でしたか! 失礼致しました」

「……特別招待選手? 私が?」

詳しい事を聞きたかったが、すぐ奥へと案内された。
2人もどうやら入っていいらしく、共に。

「来て頂いて幸いでしたよ」

「……どういう事です?」

「まさか相手が逃げ出すなんて……」

なにやら言っているが意味がわからず、すぐに控え室に着いた。

「それでは暫らくしたら担当の者が呼びに来ますので」

言って一礼、去っていく。私達は3人、机とテレビしかない個室に残された。

「……どういう事なんですかね?」

「さぁ……特別招待された覚えが無いわけじゃないけど」

こういう大きな大会であんな選ばれ方だ。充分に特別だろう。
それにしても、相手が逃げ出したって……?

「ゆ、遊菓さん……!」

シブが机に置かれていた紙を持ち、こちらにやって来た。
それはトーナメント表らしく、まるでアミダみたいに線が通っていた。

「こ、ここっス!」

指差すのは一番下の左端。そこには私の名前。

「真中遊菓(予定)……馬鹿にしてんのかしら」

「違いますッ! 隣、隣ッ!」

隣、つまり対戦相手ね。
……やまいぬ? 変な名前。

「ククク、クイーンッ!?」

「間違いないっスよ!!」

百合とシブがなにやら慌てている。もう1度トーナメント表用紙を見て、私を見た。

……よく見ればこの紙、トーナメント表(改訂版)になってるんだけど。

「なに? このやまいぬとかいうの、有名人なの?」

「『やまいぬ』じゃないです! 『さんく』、『さんく かなめ』ですッ!
 山狗枢さんッ!! クイーンですよ遊菓さんッ!!」







  『さぁ皆様ッ!! 童実野市デュエルモンスターズ大会、全選手のスタンバイが確認されましたッ!』


山狗 枢。数多の大会に出場、優勝を飾った女性デュエリスト。


  『今大会は半年に1度ッ! 総回数10度目となる記念すべき会ですッ!! 』


その強さ、風貌から『クイーン』の異名を持ち、現在最強とも名高い。


  『半期に最も輝いていたデュエリスト達が今ッ、この場に集結ッ!』


百合が大ファン……どうでもいいわね、コレは。


 『そして雌雄を決すべく、熱い戦いを繰り広げますッ!!』


今日、本来彼女と対戦すべき相手は、対戦者がクイーンと知った瞬間逃げ出した。


  『さぁ! では早速ッ!! 1回戦と参りますッ!!』


そこで白羽の矢が立ったのが私。まぁ主催者側からすれば、誰でもよかったんだろうけど。
それに最悪私が来なくとも、シードにするには充分な成績を残している。

まぁ、来てくれれば不満も生まれず済む。あの受け付けの感謝はそういう意味だろう。


  『突如現われた新星ッ!! 真中 遊菓ッ!!』


勝手に新星にしといてよく言うわ……。
そんな事を思いながら、係員が押さえるゲートを抜け、会場に出る。

出た瞬間に光、眩しくて薄目に。そして、観客中からの大声援が私を迎えた。
初めて受ける、こんな大歓声。思わず鳥肌が立った。

多分シブと百合の声もあるだろう。が、とてもじゃなく聞こえない。


  『そしてェッ! 対戦相手が逃げ出す強者ッ!!
  数々の戦暦ッ! 最強の呼び声ッ!!』


……勘違いしてた。


  『クイイィィィィィィィィィンッッッ!!!!!
  山狗ッ……枢ェ――――――ッ!!!』


この歓声。彼女が現われた瞬間の、会場の熱の上がりよう。
それに比べれば、私の時なんて……。


  『果たして遊菓選手はクイーン、山狗にどう立ち向かうのかッ!?
   それでは早速ッ! 第1回戦を始めたいと思いますッ!!』


「……ふんッ」

クイーン? 最強? 相手が逃げ出す?
くだらない。そんなモノ、全部私が引ッ剥がしてやるわ。



  『両者デュエルスタンバイッ!!』



「「 デュエルッ!! 」」




行くわよ、相棒。




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【2,】


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