「わりぃ、遅くな…って、寝ちゃってる」
机の上に開かれた、教科書とノートが窓からの風でペラペラと捲れる、教室。
誰もいない、2人っきりのこの空間で、俺らは受験勉強という敵と戦ってる。
「はは、口開けて寝てる」
いつからか、俺の中で彼女の存在が大きくなってた。
ただ、クラスが一緒だったってだけで、親友とか、そんな関係じゃない。
でも、気づいたら、隣で笑ってる彼女がいて、彼女と笑ってる俺がいた。
「ぶっさいくな顔して(笑」
彼女にとって俺は、友だち止まりだと思う。
直接、聞いたわけじゃないけど、彼女と俗に言う恋バナとかしたことないし。
「…好きなんて言えねーよ」
向かい側の席に座って、少し汗ばんだ額にかかる前髪に触れてみる。
起きてたら絶対に変態とか、馬鹿とか言われんだろうな、って思ったらちょっと笑えた。
「…ん、じゅん」
「ごめ、起こした?」
「……」
「あ、寝言か」
すーっという寝息と俺の心臓の音が静かな教室に響く。
前髪を触ってた指が、ほどよく日に焼けた頬に触れたところで俺は、彼女の寝言にどうしていいかわかんなくなって、止まった。
「、好き…潤…大好きだよ、」
これは、夢なのか。
起きてる俺までも、彼女と一緒に夢を見てるのかもしれない。
「…好き、」
もう1度呟いた彼女に俺は、やっぱりどうしていいかわかんなくて、とりあえず、席をたった。
窓際の机に座って、外を眺めてみる。
ドキドキと動く心臓はおさまる気配がない。
「こんなの、なしだよな」
本当に調子が狂う。
ただでさえ、2人っきりってだけおかしくなりそうなのに。
「…潤、?」
「あ、目覚めた?」
「来たんなら起こしてよ」
「気持ちよさそうに寝てるからいいかなって」
「夢、見てたんだ」
「俺に告る夢だろ(笑」
「え、な、なんでわかるの?」
「だって、お前…覚えてないの?」
「…もしかして、あたし、寝言で告ってた?」
「うん、まあ…そうだね」
「そっか、なら話は早いよ」
「え、」
「あたし、潤のことが大好きです」
夏の終わり、恋の始まり
(なあ、こっちこいよ)
(教室でキスとか、緊張すんな)