Glare5

□攻撃的イリュージョン
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「…。」



浮上する感覚、夢からの脱却。
ゼロはゆっくりと目を開く。
欠伸を一つしてから首を鳴らした時、見知らぬ人物が視界に入った。

ぼやけた景色の中、その人物が僅かに笑った気がした。



「おやま、起こしちゃったね。」

「…誰だ、お前。」

「さぁて。狐さん、とでも名乗っておこうかしらね?」



段々と鮮明になる視界で見知らぬ人物を捕らえる。
赤み掛かった茶色の髪を揺らしながら笑う人物――狐はその名の通り精巧な作りの狐面を被っていた。
眉間に皴を寄せて睨みつけながら投げ掛けた問いをひらりとかわされ、やや拍子抜けしながらゼロは彼女を見遣る。



「ね、あんたくんが噂の死なずでしょう?なんでも死人の子と親しい仲だとか。」

「…。」

「死人の子達フェアリーテイルが月神のお姫ちゃんをサポートしてることは知ってるんだ。ねえね、親しいのなら少しは聞いてるんじゃないのかい?教えておくれよ、月神のお姫ちゃんは今どこにいるんだい?」

「…さあな。仮に知ってても生憎見ず知らずの奴に教えてやるほど優しくはないんでね。」



他を当たってくれ。
そう言葉を紡いだ時、視界の端で蝶が踊った。
直後、猛火がゼロに襲い掛かる。
一体何故、混乱するゼロなどお構い無く猛火は勢いを増すばかりだ。



「チッ、なんだってんだよ…!」

「あんたくんが素直に教えてくれないのが悪いんでしょう?あたいだって手荒な真似はしたくないの、早く教えて頂戴。」

「知らねぇもんは教えられねぇっての…!」

「…じゃああんたくんを対価に情報をいただくしかないみたいねえ。」



炎が顔や体すれすれのところで踊る。
炎に隠れた学術殿を振り返るが辺りには誰もいない。
このままだと火傷を負って彼女が言う交渉の為の対価になってしまうかもしれない。
アリス達に迷惑をかけるのはごめんだ、状況を打破しなければ。



「っ火喰い獅子!その炎を喰らい尽くせ!」



燃え盛る炎を指差しゼロは叫んだ。
直後、ゼロの声に呼応するように淡い青色のたてがみを持った獅子が姿を現す。
獅子は炎を向いて低く唸ったがすぐに不思議そうにゼロを振り返った。
そんな獅子の様子にゼロは眉を寄せたが、その時目と鼻の先で炎が揺らいだ。
しまった…!
ゼロは来るであろう痛みを想像し体を強張らせたが、いっこうに炎は襲って来ない。
そっと顔をあげればゼロを守るように華女がふわりふわりと浮きながら佇んでいた。



「華女…!?馬鹿野郎引っ込んでろ!」

「ギィ、」

「嫌、じゃねえ!燃えちまったらどうするんだ!!」



ゼロの言葉を無視して華女は炎に向かって蔓のような腕を伸ばす。
華女が燃えてしまう、焦燥感がゼロを襲ったが華女が炎を薙ぎ払うように腕を振るうと炎はたちまち姿を消した。
華女は何度もその行為を繰り返す。
…もしかして、ゼロの脳内に一つの考えが浮かぶ。
弱点でもある炎を相手に無傷だということは、炎自体に何か秘密があるのではないか。
…嗚呼、そういうことか。
ゼロは真っすぐに狐を見遣ると薄く笑んだ。



「火喰い獅子!その炎を"焼き尽くせ"!」

「!」



獅子が吠え、赤い炎に負けじと青い炎を放つ。
青い炎はたちまち辺りを包み込み、何かが焦げるような臭いが漂いはじめた。
するとどうだろう、辺りの景色が一変した。
先程まで灼熱の海だったというのに、青い炎が消え去ると辺りは何事もなかったかのように木々が揺れ遠くでは鳥が鳴いている。
まるで夢でも見ていたかのようだ。



「初めに気付くべきだった。火が燃え盛っているのにものが焦げる臭いはしなかった…今のは全て幻覚だったんだろ?」

「…。」

「本物の炎だったら華女が出てくる訳がねえからな。…お前の作戦は失敗したって訳だ。」

「…ただの剣士って聞いていたのに、予想外さね。」



くつくつと笑う狐の足元には焼け残った蝶の形を模した紙切れが沢山散らばっていた。
恐らくこの紙切れを使って幻覚を作り出していたのだろう。
ゼロは脇差しを抜くとその切っ先を狐に向けた。



「お前、月神の姫の情報が欲しいっつってたな?この情報は極秘にされているはずだ。一般人が姫の生存を知ってるはずがねえ。…お前は何をするつもりだ?」

「…そりゃあもちろんお話をするためさ。」

「話をするためだけにお前はフェアリーテイルと交渉するつもりだったって言うのか?」

「…。」

「…まあ良い、じっくり話せばわかることだ。華女!」



ゼロが叫べば華女は小さく鳴いて、狐目掛けて蔓のような腕を素早く伸ばす。
しかし後もう少しで届くといったところで狐は忽然と姿を消した。
いなくなった狐を探して華女はきょろきょろと辺りを見回す。
また幻覚か?
眉間に皴を寄せるゼロの背後で笑い声が聞こえた。



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