Glare5

□創造的イグシスタンス
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「プシュケについて教えてほしい。」



ゼロがそう言えば影人は一呼吸置いた後、くすりと笑った。
否、ただの笑みではない。
真意を探ることが出来ない、仮面のように張り付いた表情。
影人は猫のように目を細めながらゼロを見遣った。



「…はいわかりました、そんな風に上手く行くとは思ってねぇよな?」

「影人、」

「飛沫ちゃんにゃ悪ぃがこの件に関しては飛沫ちゃんの友人として対応できねぇんだわ。」



族長補佐として尋ねる、お前さんに情報提供をして我々風祭には何か利益があるのかい?
ゼロの目を真っ直ぐに見ながら言う影人からは元族長としての威厳が感じられる。
飲み込まれてしまいそうな、その雰囲気。
ゆっくりとまばたきを一つ、ゼロは影人から目を反らすことなく口を開いた。



「…正直なところ、風祭に利潤は発生しないと思う。しかしこれ以上余計な悲劇をグレアに起こさせたくないから、俺はプシュケを…長きにわたる悲劇の根源を断ちたいんだ。」

「はは、大それたことを言うのな。神話に生者が挑めんのか?」

「俺はグレアにとってイレギュラーな存在、不可能ではないはずだ。」

「…イレギュラー、とは?」

「俺は降霊師の一族、違う世界から来た。」



言い終わるや否や強い力でぐんと押されゼロは地面に叩きつけられ、顔のすぐ側に氷柱が突き刺さる。
一連の動作をやってのけたのは言わずもがな影人その人で、彼は馬乗りになりながら冷たい表情でゼロを見下ろしていた。



「気狂い野郎を演じるのも大概にしておくれよ?」

「演じてなんかいねぇさ。背後のそれが確かな理由だろ。」



ゼロも同じく無表情で影人を見上げ、顎で彼の背後を指し示す。
影人の背後では体の部分部分が植物で出来ている異様な女が、刺のある蔓と化した腕を振り上げていた。
一体あれは…。
影人は表には出さなかったものの内心焦りつつ女とゼロを見比べ、しばしの無言の後、影人はゼロの上から降りた。
しかし影人の背後では相変わらず女が異質な腕を揺らしながら感情の読めない瞳で彼を見つめていて、若干の居心地の悪さを感じる。
影人の心理を読み取ったのか、ゼロは女に手招きをした。



「おいで、華女。」



ゼロが呼べば女こと華女はキィ、と甘えるような声を零して彼に擦り寄った。
そんな華女の頬を一撫でするとゼロは影人を見遣る。



「こいつは華女、優秀な俺の相棒だよ。」

「…、見たことのない容貌をしているがそいつはお前さんの世界の妖魔なのか?」

「いや、こいつは言わば召喚獣みたいなもんだ。」



華の女っていう民話を元に、俺は華女を"創った"んだ。
ゼロの言葉に影人は目を見開いた。
降霊師はその名前の通り霊を…魂を降ろす。
形なきものに命を与えることが出来るのだという。
ゼロは命を与える対象として生まれ故郷の民話の登場人物を選んだ。
降霊師自身の想像力や思い入れが強ければ強い程、"形なきもの"ははっきりとした実体を持つ。
降霊師なんて生まれて初めて見たが、そんな影人にもゼロが一族の中でもかなりの腕であるのだということがわかった。



「…ハ、飛沫ちゃんもとんでもねえ奴を連れて来てくれるのな。」

「か、影人…」

「いいぜ、ゼロ・エンプティ。風祭が誇るグレア最高峰の神話学研究…見せてやるよ。」



この男に未来を委ねてみようか。
もしかしたら本当にグレアを長きにわたる悲劇から解放してくれるかもしれない。
気狂いだなんて上等だ、神話に挑むのだから気狂いくらいが丁度良い。
人知れず笑みを零すとゼロ達を率いて、大量の書物が納めてある建物へと歩みを進めた。


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