Glare5

□創造的イグシスタンス
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「着いたぞ。」



影人に連れられてやってきたのは荘厳な木造建築だった。
影人はこちらを振り返ると顎で建物を指し示しながら言葉を紡ぐ。



「ここは学術殿。…俺も含め神話学者はここで研究をしてる。」

「研究…?お前は神話学者だったのか?前族長や族長補佐って言うのは、」

「俺は本来神話学者なんだよ。…さ、立ち話もなんだし中に入れ。」




影人に促され、中に入れば古い書物の匂い漂うひんやりとした空気に包まれた。
学術殿の中では幾人かの学者であろう人々が書物を抱えながら忙しそうに行き来していた。
ちらりと飛沫を見遣れば感嘆を零しながら辺りを見ている。

そのまま影人に視線を移すと彼はここに所属しているのであろう人物と話をしていた。



「…嗚呼、俺が見込んだ人物だ。問題ない。」

「……。貴方様がそうおっしゃるなら大丈夫でしょう。どうぞ書庫の鍵をお持ちください。」

「ありがとな、風間。よっし、書庫はこっちだ。」







「この書庫にゃ古しえの風祭一族が…いや、術師が記した書物が納めてある。」



地下に広がる洞窟のような空間に影人の声が小さく響いた。
辺りには沢山の引き出しがついた棚が並んでおり、本以前の貴重な資料が納められているのだと言う。
そんな引き出しを一つ開けながら影人は口を開いた。



「『女神の死は神子を変えた。時神子は愛を求め、闇神子は哀に沈んだ。嗚呼、始まりを司る我らが御主よ、貴殿は何とも無情なことをなさる。』…って知ってるか?」

「それって古グレア神話の有名な章…よね?」

「ご名答。実はこの文は神話集として広まる前に色々改訂されてんだ。んで、原文の第19章にはこう記されてる。」



嘆きよ、嫉みよ、憎しみよ。
淀んだ思いは形を成す。
女神を包む極彩色、輝き失う暁の星。
双子の道は別れた。
御主よ、貴殿はこの悲劇をご存知なのだろうか。




「プシュケの記述は神話集が編まれる際に消されたんだ。」

「…何故?」

「こっからは神話学者としての一意見な。消された理由は恐らく、奴が女神を殺したから。神殺しは本来あってはならないこと、プシュケはそれをやらかしたんだから当然っちゃ当然だろう。…しかしこれもあくまで推測だから正確なことは当時の奴でなきゃわからない。」



そこまで言うと影人は首を振り、原文の刻まれた石版をしまった。
影人の背中を見遣りながら墓標でのアドミニスの言葉を思い出す。
"悲しいモノだね、ワタシには見守ることしかできないんだよ。"



「…影人、プシュケは倒すことが出来るのか?」

「可能性としてはな。…これは地方の民話を研究していてわかったんだが、プシュケはサイエンに敗れたことがあるらしい。」

「グレアの古代神、か。」

「嗚呼、知恵と真実の女神だよ。彼女は彼女の持つ知恵を"食べ"ようとしたプシュケを神剣を用いて撃退したそうだ。」



お前は神話に会ったんだ、サイエンから神剣を賜ることももしかしたら出来るかもしれないな。
言いながら影人はくすりと笑った。


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