Glare5

□鳴り響くのは
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「おやおやァ、利き腕が使えないって言うのにまだやるのかァい?」

「私も伊達に死神やってない、なめないで頂戴。」

「そォんなこと言うなら次はしっかり殺してあげるよォ。」



リーイーシャの顔でそんなことを言うから僕だってイライラしてるんだよねェ。
パキリと指を鳴らしながら紡がれた言葉にロアは表情の読めない顔でまばたきを一つするとシド目掛けて駆けて行き三節棍を振り被る。
当然シドは液体化してかわそうとするのだが三節棍はシドに当たることなくシドの目の前で三つに分かれた。
予想外のことにシドが驚き動きが一瞬遅れるとロアはその隙をついて薙ぎ払うように三節棍を勢いよく横に振った。
三節棍には相変わらず何かが取り巻いており、それはロアが三節棍を横に振った途端鋭い刃物のようにシドに襲いかかる。
音もなくシドの体の至る所に切り傷が生じ、シドは思い切り舌打ちをすると腕のみを液体化させてその腕をロア目掛けて伸ばしてきた。
鞭のように素早いそれをかわすのは困難だったらしく避けきれずロアは腹部にその攻撃を受ける。
ジュウと溶ける音がしてロアの腹部付近の服はボロボロになり、攻撃により僅かに爛れた肌と共に生前に負ったのであろうナイフによる大きな傷が露わになった。
何度も刺されたのだろうか、惨たらしい傷跡に僕は思わず目をそらす。
視界の端で隠すように腹部を覆うロアの姿と、こめかみを押さえながらふらふらと二三歩後ずさるシドの姿が見えた。



「…なんで、その傷…」

「…。」

「濃桃色の瞳、青くて長い髪、左目の泣きぼくろ、それに…腹部の傷。君は本当に…リーイーシャ?」

「…シド、」



静かに、しかしはっきりとした声でロアはシドの名前を呼ぶ。
ロアが真っ直ぐに見つめる彼の顔には闇人らしい狂気は全くと言っていい程に感じられなかった。
リーイーシャ、愛しげに呟くとシドは膝を着いて一筋の涙を流した。



「…二人とも僕をおいて逝ってしまった。君もルシエラもいない世界に僕は一人、寂しくて悲しくて…君達がいなくなっても変わることのない世界が憎かったんだ。」

「…。」



ふいにロアの手から三節棍が消えたかと思うと彼女はシドを抱き締めた。
何も言わずにただ強く、強く。
青色の前髪に隠れてはっきりと表情がわからなかったが頬に光の筋が見えた。
しばしの間静寂が僕達を包み込む、言葉を交わすことなく抱き合う二人はまるで物語の一場面を演じているかのようだった。
死神と闇人、しかし夫婦、その事実を思い返すと胸の奥が締め付けられるような気分に陥る。
それと同時に僕に闇人と言う存在について考えさせた。
闇人とは愛を失った悲しみが憎しみと混ざり、悪魔を介して生まれる。
闇人となった者は悪魔同様に残虐を好み、悲劇を生み出すのだがシドを見ていたら極普通の生者らしい存在のようにも思えた。
ふと以前籠の女さんがジキルに向かって紡いだ言葉を思い出す。
"寂しさを憎しみに包み込んで、狂気を安息の場所と錯誤する狂人。"
籠の女さんの言葉はジキルだけでなく彼、シドにも言えるのかもしれない。
そんなことを考えていたらシドがロアの肩口に顔を埋めたまま静かに口を開いた。



「…リーイーシャ、お願いだ。もう僕をおいていかないでおくれ。」



独りはもう、辛いんだ。
嘆願するかのような声、彼の言葉に僕は目をそらす。
死神と闇人は交わることの出来ない存在だ、そんなのは不可能に決まっている。
ロアは微かに赤くなった目にモミジを映す。



「…モミジちゃん、声はもう出る?」

「……うん、」

「治ったばかりなのにごめんなさい。でもお願い、」









「"闇歌"を歌って頂戴。」





以前感じた形容しがたい不安が再び僕に襲いかかった





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