Glare5

□鳴り響くのは
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激しい攻防戦だった。
シドが酸と化した腕を振り下ろしたと思えばロアは間一髪でそれを避けて三節棍で素早く突く。
脇腹を的確に狙ってきた攻撃を液体になって無力化するとそのまま三節棍を伝ってロア目掛けて襲いかかる。
しかし直ぐ様三節棍を消すと後ろに大きく跳躍してシドと距離を置いて避ける。
次々と繰り返される攻撃に僕は思わず目を見張った。
元夫婦、しかし闇人と死神、悲劇を生む者と防ぐ者では立場が違いすぎる。
平生柔らかな笑みを浮かべている彼女が全くの無表情であるのを見ると何とも言いがたい気持ちになり、胸の奥がつきんと痛んだ。



「ちょこまかと小賢しい奴だ。」

「あら、貴方こそ逃げるのがお上手よ?」

「…バラしてやりたいねェ。」

「物騒なことを仰るのね、マッドサイエンティスト。」



私達も暇じゃないの、さっさと蹴りを付けさせてもらうわ。
言いながらロアは三節棍を軽く振る。
するとどうだろうか、三節棍の周囲を何かが取り巻き始めた。
取り巻くそれが時雨に使える風龍の操るものと似ているような気がしたがその時モミジが小さく咳込む声が聞こえた為僕にはあれが一体何なのかを理解することは出来なかった。
座り込むモミジの側に屈むと僕は辛そうに目を伏せる彼女の顔を覗き込んだ。



「モミジ、辛いですか?」

「ぁ、お…と」



(まだ、ちょっと)
モミジの口は確かにそう動いていた。
微かな母音が聞こえたことから声が戻るのも時間の問題だろうか。
再び咳き込み始めたモミジの背中を撫でているとシドの呻くような声が聞こえた。
僕とモミジ、二人して振り向けばシドは左肩から血を滴らせている。
そのままロアの手に視線を移せば先程同様、三節棍には何かが取り巻いていた。



「カマイタチの味は如何?…いくら液体になれたとしても瞬時に反応できないなら私にも勝機はあるわね。」

「…。」

「次は利き腕を狙うわ。やられたくないのならこの場から立ち去って。」

「…くく、あはハ。」



俯いたシドの口から笑い声が零れ、ロアは怪訝そうな顔をして三節棍を構える。
シドはにたりと不気味な笑みを浮かべながらコツコツと靴音を響かせロアに歩み寄る。
その不可解さにロアが顔をしかめている間もシドは進める足を止めなかった。



「…止まりなさい。」

「あは、言いたいことはそれだけかァい?」

「…っ!」



ロアは一度顔を歪めた後三節棍を大きく振ろうとしたがそれが叶うことはなかった。
ロアが三節棍を振るよりも早くシドが彼女との間合いを詰めて右手を捻り上げたのだ。
カラン、三節棍が落ちる音の後に聞こえたのはバチバチと言う音とロアの叫び声にも似た悲鳴。
掴まれた彼女の右手首からは薄灰色の煙が細く立ち昇っている。
僕は弾かれたように駆け出すと半ばロアを突き飛ばす形でシドから解放する。
先程似たような攻撃で僕が受けた傷よりも酷く見える手首を押さえながらロアは苦しそうに眉を寄せていた。



「ロア、貴女はもう下がっていて下さい。あとは僕が、」

「ネオンくん、私はまだ戦えるわ。」

「そんなこと言っても貴女の手は…」

「こんなのどうってことない!だから戦わせて、お願い…!。」



吸い込まれそうな濃桃色の瞳を見ていたら僕はもうこれ以上何も言うことは出来なかった。
彼女は戦っているんだ、シドと、そして自分自身と。
僕が口を閉じると彼女は立ち上がり、左手で三節棍を強く握りしめた。



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