Glare5

□隻眼の虎
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東方支部に着くときららの計らいにより代わりの服が用意してあった。
まだ小降りの中歩いていたとしても僅かに濡れた着物を気にしていた時雨にとってきららの気遣いはとてもありがたいものだった。



「着替えありがとうございます、それに紅茶も。」

「時雨ちゃんは大切なお客様だから気にしないで。…ただ代わりの服が軍服でごめんなさいね。」



眉尻を下げて笑いながらきららは言う。
そう、時雨は今軍服を身に纏っている。
軍服と言っても幹部クラスの人材が身に纏う軍服であり、ここ東方支部でこの軍服を纏える女性はきららしかいない為小柄な時雨が着るとぶかぶかであった。
しかし自分の為にわざわざ用意してくれたかと思うと感謝の気持ちでいっぱいだった。
時雨は柔らかく微笑むと紅茶を一口口に含む。
じんわりと優しい甘さと暖かさが体に染み渡る。



「…さて、そろそろ本題に入りましょうか。時雨ちゃん、あなたは本当に烙舞を探すの?烙舞は知っての通りあなたの一族を滅ぼした張本人よ。そんな彼に会ってあなたは何がしたいの?復讐目的ならおやめなさい、烙舞を前にして冷静でいられないならばあなたの命は無いわ。」

「私は理由が知りたいんです。どうして里を滅ぼしたのか、それが知りたいんです。」

「相手は兵器よ、理由なんて無いかもしれない。」

「それでも!!…それでも、探さないよりはましです。」



もう守られるだけのお姫様でいるのは嫌なんです。
兄に、閃架に、里に、風祭に、たくさんの人たちに守られてきた。
このまま一族の滅亡の理由など探さずに風祭で過ごした方が何倍も安全だろう、しかし時雨にはこの上無い苦痛だった。
今まで守られ続けてきた時雨にとってこの旅は危険以上に自身が成長するために重要な存在なのだ。
真っ直ぐな時雨の思いが通じたのだろうか、きららは小さく息を吐くと薄く笑んだ。



「…あなたが本気だってことがわかって良かった。安心して、もうすぐ虎の子がこちらへ来るはずだわ。」

「虎の子、ですか?」

「風祭の保護下を離れた今、あなたはいつ狙われてもおかしくないの。虎の子は昔あたくしの部下だった現在本部勤務の優秀な子よ。本部までの案内役兼ボディガードとでも思って頂戴。」

「本部…!?きららさん、私が行きたいのは南方支部ですよ!?」

「南方支部は今は行かない方がいいわ。今あの支部は生物兵器問題で孤立してる、生物兵器と関わった中で唯一の生存者であるあなたが南方支部なんかに行ったらどうなるかわからないわ。それに本部なら幾らか情報を入手しているはずだし…あちらで話を聞いてから次の行動を考えても良いんじゃないかしら。」

「…。」



真っ直ぐに自分を見つめるきららを見たら時雨は何も言えなかった。
それと共に自分のことを案じてくれたきららへ申し訳なさと感謝の意がこみ上げて来た。
黙ってしまった時雨と時計を交互に見るときららは薄く笑んで時雨の頭を優しく撫でる。



「時雨ちゃん、何でも独りで抱え込むことが大人じゃないのよ。あなたにはあなたが困った時に助けてくれる人達がいる、困った時はその人達の善意に甘えて次からは自分で頑張りなさい。」

「きららさん、」

「どんなに背伸びしたってあなたは15の女の子、無理しないでね。」

「……はい。」



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