Glare5
□隻眼の虎
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時雨が頷くのに少し遅れて机の上にあった電話が鳴り響いた。
軍人らしくしゃきりとした態度で電話に応対するきららをぼうっと眺めていたらふいに彼女の口元は笑みを形作る。
何事かときょとんとした時雨だったが通話を終えたきららの口から出た言葉で全てを理解した。
「良いタイミングだわ。時雨ちゃん、虎の子が此処に着いたみたいよ。もう二、三分もしない内にこの部屋に来るでしょうね。」
「わ、私失礼の無いように出来るでしょうか?」
「何言ってるの、さっき無理しないでって言ったでしょう?時雨ちゃんは自然体でいればいいのよ。」
「でも…」
本部勤務の軍人さんだもの、怖い人だったらどうしよう。
不安だらけの時雨のかすれそうな声はしっかりとしたノックの音にかき消される。
ノックの音で時雨の緊張は最高潮に達し、何事かと慌てた様子で四龍達が姿を現した。
そんな時雨と四龍の様子を眺めながらきららがくすくすと笑っていると再び几帳面そうなノックの音が響く。
きららはひとしきり笑うと扉に視線を移し入るように促した。
「虎の子ね、入って頂戴。」
「失礼します。」
男性らしい低めの凛とした声が部屋の向こう側から響き、それと共に扉が開かれて声の主であろう人物が入ってきた。
180cmは超えるであろう長身を茶色を基調とした迷彩服で包んだ、隻眼の人。
一瞬の隙も見せないような青色の鋭い目はまさしく虎そのものだ。
時雨が思考を巡らせているとふいに彼は時雨に視線を移し、コツコツと靴を鳴らしながら歩み寄ると目の前に片膝を着いた。
「姫、お初にお目にかかります。自分は東雲国軍隊本部より参りました雛塚小虎と申します。」
「あ、は…初めまして、月神時雨です。」
「僭越ながら自分が姫を東軍本部まで護衛させていただきます。」
至らぬ点があるとは思いますがどうぞよろしくお願い致します。
言い終わると彼、虎の子こと小虎は柔らかく微笑んだ。
先程までの鋭さが全く無く、青色の隻眼は心なしか暖かみを帯びているように思えた。
時雨が安心したのを察したのか周りに立っていた四龍達は顔を見合わせて静かに笑い合った。
小虎からは実兄の緋影とはまた違った兄のような雰囲気を感じる。
この人なら大丈夫、心の中でぐるぐると渦を巻いていた緊張がほぐれた気がした。
時雨は背筋を伸ばすと恭しく一礼し、はっきりとした声で言葉を紡いだ。
「此方こそ、どうぞよろしくお願いします。」
青色の瞳を真っ直ぐに見つめながら
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