Glare3
□籠の鳥
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「…どちら様?」
「あ…死神です。初めまして、ネオンと申します。」
「死神…そう、わらわもとうとう死ぬる時が来たのですね。」
「…。…貴女のお名前は?」
「わらわですか?わらわに名前はありませぬ。どうぞ、『籠の女』とお呼び下さいませ。」
深々と頭を下げると籠の女さんは薄く笑った。
なんでも、籠の女さんは物心付かないうちに貴族の家に連れてこられたのだと言う。
鳥のように美しい声で歌う彼女はこの家の当主に痛く気に入られ、この部屋に軟禁されているらしい。
名前を呼ばれたことなど一度も無い。
名前代わりに付けられた通り名は籠の女、部屋(籠)に閉じ込められた歌姫の意。
それが彼女だった。
「人の死ぬ間際には死神がやって来ると言うのはまことのことだったのですね。」
「…怖くは、ありませんか?」
死ぬことが、自分と言うものがなくなってしまうことが。
籠の女さんは驚いた顔をしていた。
恐らくは死神がこんな質問をするとは思っていなかったのだろう。
しかし驚いていたのもほんの束の間、籠の女さんは寂しげな笑みを零した。
「怖くないですよ。わらわの"声"は必要とされていても、わらわ自身は誰にも愛されていませんから。」
「…。」
「なんと表現したら良いのでしょうね。世界への憎悪や悲しみ、羨望が混ざりあって自分の中で上手く消化出来ません。」
「へぇ。でも憎悪は確かにあるんだ?」
「!」
ふわり、風が吹いたかと思うと僕達の前に一人の悪魔が現れた。
ジキル、僕達死神が従う時神子ジュイと対をなす存在の闇神子キメラの側近。
悲劇を防ぐ者と促す者の立場である僕達は対立関係にある。
嫌な奴が来たものだと僕は顔をしかめた。
「ねぇ、籠の女。憎悪を解放してみる気は無い?」
ジキルは笑う、しかしそれは口元だけで目は笑っていない。
氷のジキル、愛に無知で冷酷な彼の通り名が僕の頭の中を過ぎった。
籠の鳥の前に現れたのは
死神と悪魔
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