Glare4

□二つに一つ
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「…随分と物知りな狐だな。余計なおしゃべりが出来ないようにその口を縫いつけてあげようか?」



くつくつと笑うコロナから紡がれる言葉からはひしひしと殺気を感じる。
茜は一瞬びくりと体を震わせたが唇を噛み締めながらコロナをきっと睨み付けた。
対するコロナは相変わらず嘲笑にも似た笑い声を漏らしながら異端の瞳を細めていた。



「それにしても異形の瞳とはなかなか言うよね。…でもさ、俺の目のことを言うなら妖狐、君の目も十分異形だよ?」



血のように真っ赤な目、悪魔だってそんな目の色してないのにね。
ゆったりとした手つきで瞼を撫でながらどこか馬鹿にするような口調でコロナは言う。
対する茜は何も言わずにいた。
否、言えなかったのだろう。
大きな紅い瞳はゆらゆらと揺れていた。



「おしゃべりはこの位にしようか。お仕事は早めに片づけた方がいいしね。」



笑いを含んだ声と共に雨のように降り注ぐのはナイフの雨。
その切っ先は全て茜に向いていたが黄泉は茜の前に躍り出ると人間では出せないであろう速さでナイフの大群を蹴り飛ばした。
コロナは未知数だった黄泉の力を見て目を丸くさせる。
ナイフが茜に当たることなく地面に落ちたことに対してもだがそれ以上に彼を驚かせたのは黄泉の自己治癒能力だった。
ナイフを蹴り飛ばしたのだから当然黄泉の体には切り傷が出来る、しかしその切り傷は見る見るうちに塞がっていくのだ。
驚いている間にも黄泉の傷は塞がり続け、やがて無傷同然となった。
冷や汗が背筋をつぅと流れるのを感じた。
これは、恐怖だ。
未知のものと対峙する恐怖、自然と握った拳に力が入る。



「……灰色、お前一体何者だよ。」

「俺は東国で創り出された生物兵器だ。」

「生物兵器…!?」



コロナの表情が明らかに変わったのがわかった。
さっきまでの不敵な笑みや、嘲りの眼差しはもう何処にもない。
あるのは焦りと恐怖、コロナは口を結ぶと体制を低くしてナイフを構えた。
いつまでも防戦ばかりでは倒すことなど出来ない、黄泉はまばたきを一つすると無言で拳を構える。
風が凪いだ時、その場から二人の姿は消えて激しい攻防が始まった。

ナイフと素手だというのにほぼ互角、否、それ以上に黄泉の方が優勢なのは黄泉が戦闘用に生み出された生物兵器だと言うこともあるだろう。
コロナが一瞬たじろいだ時黄泉の拳はコロナの腹部へとめり込んだ。
声にならない声を上げながらコロナは背後の大木に叩きつけられる。
叩きつけられた時に口の中を切ったのだろう、口の端から血を垂らしながらコロナはずるずると体勢を崩した。



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