Glare4

□彼らはまだ、知らない
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「フレンジィ!」



黒い翼を大きく羽ばたかせながら降り立ったフレンジィを見ると雫は嬉しそうに紅い目を細めた。
そんな雫を見てフレンジィは困ったような、それでいて嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた雫を抱きしめる。
抱きしめると共にふわりと香ったのは柔らかな香の匂い。



「…雫、良い匂いがする。」

「本当?これね、知り合いの妖魔に教えてもらって自分で作ったの。」



ちょっと大変だったけどそう言ってもらえてよかったわ。
恥ずかしそうに言う雫の頬はほんのりと赤い。
そんな雫を見てフレンジィの心臓はどきんと跳ねる。
今まで抱いたことのない感情に整理が追いつかなくてあたふたしていたフレンジィだったが雫が次に紡いだ言葉でフレンジィの思考は完全に停止した。



「フレンジィのことをイメージして作ったから、お気に入りだったの。」

「………ッ!?」



な、何を言ってるんだこの子は!
体中の血液が顔に集まっていくのを感じる。
きっと、今の自分は雫以上に真っ赤な顔をしているのだろう。
対する雫はきょとんとしながらフレンジィを見上げている。
…最強とは雫のことを言うんじゃないだろうか。
不思議そうに瞬きを繰り返す雫は何もわかっていないようで余計溜息がこぼれそうになる。



「どうしたの、フレンジィ?」

「いや…何でもないよ。」



ふるふると首を振るとフレンジィは自分の頬を軽く叩く。
ぺちりと小気味良い音を響かせた頬は酷く熱く、僅かな苦笑が口から漏れた。
しかし、その苦笑は同時に幸せそうだった。
フレンジィは雫の髪を梳きながら甘えるように肩口に顔を寄せる。
ふわり、香るのはあの香の匂い。
甘く、それでいてどこかほろ苦さを兼ね備えた不思議な匂い。
雫にとって自分はこの香りのような存在なのだろうか?



「雫。」

「なあに?」

「雫、好きだよ。」

「私も好きよ、フレンジィ。」



返り血に濡れ、重なりあった屍の上に君臨し哄笑していたかつてのフレンジィはここにはいない。
柔らかな光が射す場所で、最愛の女の側でぎこちなくも優しげに笑う。
今、二人は幸せだった。
この幸せが終わることを誰が考えるだろうか?
フレンジィと雫は身を寄せ合いながらあの香りの漂う中でそっと手を握り合った。





彼らはまだ、知らない
(束の間の幸せの中で笑い合う)
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