Glare3
□ブラッディーローズ
3ページ/6ページ
「こんばんは、お嬢さん。」
これから僕に最高の時間をくれるこの子に挨拶しないのは失礼でしょう?
僕が優しい口調で言えばその子は栗色の髪をふわりと揺らして振り返った。
…その時、目を奪われた。
白い肌に桜色の頬、長いまつげに縁取られた妖狐特有の吸い込まれそうなくらい綺麗な紅い目。
僕は初めて殺すのが惜しいと思った。
「…あなたは?」
「あ…フレンジィ、だよ。」
「そう、フレンジィ…私は雫。」
淡く微笑んでその子は雫と名乗った。
雫、僕が愛した最初で最後のヒト。
妖狐の雫と悪魔の僕は恋に落ちたんだ。
雫といると殺しとは違う気持ちで満たされる。
それが嬉しくてもっと一緒にいたくなる。
お互いの種族なんて関係ない、僕らは毎日周囲に秘密で会っていた。
雫と長い時間いるためには余計な行動を省くべきだ。
この頃の僕は全くと言っていいほど殺しをしなかった。
そんな僕に次第に気付いたのかルチカとジキルは不思議そうな顔をして僕に尋ねた。
「…珍しいわね、ここしばらく貴方から血の匂いがしない。」
「え!?フレンジィさんこの頃殺ってないんですか!!」
「気まぐれだよ。…ただのね。」
嘘、本当は殺しをするよりも雫と居たいから。
僕が殺しをしなかった理由をしきりに問うルチカとジキルに適当な嘘を吐くと僕は自室へと戻った。
…その時は気付かなかったけど今ならわかる気がする。
擦れ違い様にルチカが言っていたあの言葉が何を意味していたのか。
「悲劇は万物に降りかかるわ。」