Glare3

□月光蝶
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「…何故何も言わずにここに来た。」

「別に大した理由はないよ。…お月さまが見たかっただけ。」

「月が見たかっただけで涙を流す奴がどこにいる。」



目尻に溜まった涙を舌で掬うように舐める。
突然の行動に驚いたのかアリスは青白い頬を真っ赤にさせた。
それと共に二、三歩距離を置こうとしたが抱き締められているせいでそれも叶わなかった。
離れてくれと言ったところでその言葉をキゼが簡単に聞き入れてくれるはずがない。
アリスは諦めたように溜め息を吐いた。



「…僕、悲しい時はいつも月を見に来るんだ。」

「…。」

「今日もお仕事中にターゲットに言われちゃったんだ、生ける屍って。…まぁ、事実なんだけどね。」



言いながら無理に笑う姿が痛々しかった。
それとともにどうしてアリスをこんな境遇に生んだのかとキゼはいるかどうかも分からない神を恨んだ。



「…お前はお前だろう。」

「キ、ゼ…?」

「誰がなんと言おうがアリスはアリス、その事実は変わらない。」



真っ直ぐな瞳、吸い込まれそうだった。
嗚呼こんなにも思ってくれる人がいるんだ。
アリスは目を細めて笑いながら感謝の気持ちを込めて触れるだけの口付けを送った。



「ありがとうキゼ。」



僕は僕、だよね。
月の光が淡く二人を照らす。
優しく、包み込むように。
その後ろ姿はもう悲しみなど感じさせなかった。






END
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