Glare2
□隠恋慕-カクレンボ-
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ある春の日の午後、チェシャは研究所に近い街の洒落たカフェテリアでコーヒーを飲みながらうとうととまどろんでいた。
暖かい日差しと暖かいコーヒーの組み合わせは仕事続きで疲れていたチェシャの眠気を誘った。
「チェシャ君。」
ふいに聞こえた自分を呼ぶ暖かい声にそっと目を開く。
視界に入って来たのは同僚の科学者、小春・クレヴァー。
控え目に手を振る彼女に微笑みかけてからチェシャは立ち上がり、自分の席とテーブルを挟んで向かいの椅子を引いた。
「わざわざありがとう。…相変わらず紳士的なのね。」
「いえ…私は当然のことをしただけですよ。」
「ふふ、そう言うのって素敵よ。」
口許を押さえて小春はくすくすと笑う。
その笑みが今は自分だけに向いていると思うとチェシャは嬉しくて仕方がなかった。
とくんとくんと自分の心臓が動くのを感じる。
この感じ、恋をしていると実感するこの心地よい鼓動の高鳴りがチェシャをより一層喜ばせた。
「そうだわ。ねぇチェシャ君、いつの話になるかわからないけどお願いがあるの。」
「なんですか?」
「私に子供が出来たらね、君に名前をつけてほしいの。」
「…名前、ですか。」
突然、子供の話になりチェシャは気付かれないように僅かに顔をしかめた。
それもその筈、チェシャは彼女に惚れているから。
しかしそんなことを口にすることは出来ない。
もしも口にしたら彼女を困らせてしまうからだ。