Glare

□四話
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「…茜。」



暗がりの中、少女伊織は愛しい妖狐の名前を呟いた。
身動きをすればじゃらと鎖の鈍い金属音が響く。
伊織はもう一度名前を呟くと、溜め息を吐きうつ向いた。

痣や切り傷のある細い腕、お世辞にも綺麗とは言えない。
しかしこんな小娘一人で借金を帳消しにしてくれたのだから文句は言えないだろう。
そう納得し、伊織は手をさすった。



『伊織大丈夫!?』



さすると感じるぴりりとした痛みに、伊織は少し顔を歪めた。
もしもこの場に茜がいたら心配してくれるのだろう。
…でも彼のことだから必要以上に心配するかもしれない。
おろおろする茜の姿が目に浮かび、伊織は一人くすりと笑った。



「伊織!早くこい!!」



遠くから聞こえる男の…主の声。
明らかに苛立っている。
嗚呼、早く行かないと殴られる。

また脳裏に茜の姿が浮かんだ。
しかしそれを振りきり、伊織は立ち上がった。



「はい、ただいま。」



主は妖狐を嫌っているから。
茜が来たら確実に殺されてしまう。
伊織は茜のためならばと頷き、思った。
お願いだからこないで、と。




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