Glare4

□時追い
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「お願いだよ!僕頑張るからっ!」

「ーっ!」



きゃんきゃんと子犬が鳴くような甲高い声によって律は現実世界に引き戻された。
ちらりと窓の外を覗けば門の前で門兵に押さえ付けられる少年が視界に入る。
体の大きさからしてまだ十を迎えていないくらいの歳なのだろう。
小さな手足を一生懸命に動かしながら少年は必死に声を張り上げていた。



「小さくても志があれば軍人さんにはなれるんでしょ!?僕は兄様のように御国の為に働きたいんだ!」



(兄様)
甘えたような幼い声が蘇る。
律はまばたきを数回繰り返すと窓辺から離れ、足早に門へと歩いて行った。










「軍隊は遊びじゃないんだぞ!?」

「僕は遊びだと思ってなんかいないよ!」

「だから…!!」

「少年、少し話をしようじゃないか。」



律の声に門兵と少年の動きがぴたりと止まる。
そして声の主である律を見た途端門兵は驚きの、少年は喜びの表情を浮かべた。
律は薄い笑みを浮かべたまま少年に歩み寄る。




「まず自己紹介と行こうか。ご存じの通り私は東雲国総統の吾妻律だ。少年、御人の名前は?」

「はい、総統閣下!僕は東雲国軍隊第三部隊第四班班長、市川誠一の弟の市川幸路です!」

「…市川誠一の?」



律は先程手を付けていた書類の内容を思い出す。
先の戦いで西国の伏兵戦法によって第三部隊の一部が壊滅の危機まで追い詰められた。
しかし機転を利かせた班長のお陰で全滅は免れたと言う。
残念ながら班長は戦地から帰還することはなかったが何人もの兵士の命が救われた。
その偉大な班長の名前は確か、市川誠一。
目の前の少年、幸路が口にした兄にあたる人物と同じ名前だった。


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