Glare5

□俺の左頬に紅葉が出来た日
1ページ/1ページ


「ねえ韋助、何ぼうっとしてるの?」

「へ、」



声と共に軽く袖をひっぱられ、ハッとする。
慌てて視線を移せば俺の腕に腕を絡めながら不満げに見上げてくるオンナノコの姿。
ああそうだ、俺デートの最中だったんだ。
悪い悪いと謝るもすっかり機嫌を損ねてしまったらしい彼女は俺を一睨みしたかと思うとそれはそれは強烈な平手打ちを一発お見舞いしてくれた。
乾いた音が正午の空に響き渡る、俺の頬に見事な紅葉を作るとオンナノコは靴を鳴らしながら去って行ってしまった。
まじでついてねえ、そしてかなりいてえ。
じんじんと痛む頬を押さえながらため息をついた時、背後でくすくすと笑う声が聞こえた。
なんだなんだ、俺のこと笑ってやがんのかよ。
紅葉のついた顔じゃ格好つかねえとわかってっけどちょっと睨みを利かせて振り返ればそこには見覚えのある顔が三つ。



「わあ、韋助さまたら怖いお顔!」

「あはーいいですかナズナ、これが情けない男ですよ。」

「これまた見事な紅葉作ってんな、お前。」



ナズナちゃんに宗一郎、そして小虎。
三人とも言いたい放題言ってくれちゃって…まあ事実なんだけどさ、ちょっと腹立つ。
やり場のないいらいらに目を伏せ額の銃創をなぞっていたらふいに腹部に軽い衝撃が来て目を見開けば、細っこくてみじけー腕を思い切り伸ばしてナズナが俺に抱き付いていた。
ぐりぐりと頭を押し付けてくるナズナに思わずにやけそうになっちまったがなんとか持ちこたえる。(だって仮にも俺は振られたばかりの男だし、そうでもしねえとロリコンみてーじゃん!)



「ナズナちゃん、どした?」

「韋助さまが怖いお顔してほっぺ赤くなってるのはさっきのお姉様のせいですか?」

「…。え、えーとそれは…」

「おいナズナ聞いてやるな、それはいくら女好き野郎に対してでもかわいそ…ックク…!」

「そうですよナズナ、追い打ちを掛けちゃ駄目…っぷ…!」

「おいそこの二人組、お前らの脳天ぶち抜いてやろうか。」



ナズナちゃんがせっかく俺を慰めようとしてくれたのにさ、あいつらったらマジないわ。
言葉と一緒に懐の銃をちらつかせてみれば二人は笑いをこらえながら両手を軽く上げ、降参のポーズをとる。
嗚呼もうマジムカつく、ちっとはナズナちゃんを見習いやがれ。
やれやれとこめかみを押さえるとナズナちゃんが許せないです!とやや怒ったような調子で言った。
…ん、許せない?
不思議に思いながらナズナちゃんを見れば小さなほっぺたをこれでもかと膨らませてカノジョ(悔しいけど元、と付ける)が去って行った方向を睨んでいた。



「韋助さまは良い御人ですよ!なのにいじめるなんてナズナ、許せないです!」

「ナズナちゃん…!」



なんて良い子なんだ!
こんな良い子と一緒に暮らしてるだなんてヘタレ虎のくせに羨まし過ぎんぞ。
妬みの視線を小虎にやればあいつは訳がわからないとでも言うように眉を寄せる。
なんなんだよあいつ!
ちょっと俺より身長が高いからっていい気になりやがって!



「小虎この野郎身長縮め!」

「いきなりなんだよお前。」

「まあまあ小虎、」



口元を隠して笑いながら宗一郎が小虎の肩を叩く。
そのまま何か視線で会話をすると二人は俺を見た。
え、お前らいつからそんな会話技術身につけたんだよ。
訳が分からないのは俺とナズナちゃんの二人、偶然にも同じ方向に首を傾げちゃったりしちゃって…あ!何度も言うようだが俺は断じてロリコンなんかじゃないからな!
そんな俺の心中を知らない二人は(や、知られても困るけどよ)俺の背中を押しながら歩き出した。



「な、な、押すなよ!」

「さあさあ、何回目だか何百回目だか忘れましたが失恋パーティーでもしましょ。」

「何百回とか失礼だなお前!さすがにそんなに振られてねーよ!」

「だってお前の左頬の紅葉とかもう見慣れちまったし。おい宗一郎、いつもの場所で良いんだろ?」

「ええ。ほら韋助、そろそろ自分で歩いてくださいな。行く場所はわかってるでしょう?」

「…チェシャさんとこの喫茶店、だろ?」

「「ご名答。」」



チェシャさんとこの喫茶店に行くとわかった途端今まで静かだったナズナちゃんが嬉しそうに声を上げた。
それ自体はほのぼのしてて和む光景なんだけど…さ、俺振られるたびにこの二人に喫茶店に連れてかれてる訳よ。
だから最近じゃ普通にお茶しに行っても困ったような笑顔で迎えらたり…。(この間なんかこれでも食べて元気を出してください、なんてミルクレープ出されたんだぜ!ありがたく頂いたけどかなり複雑な気分だったよ)
色々と考えが浮かんだがそうこうするうちに喫茶店まで目と鼻の先に距離に来てしまっていていい加減諦めがついた。
もういいよなんとでもなれ!



「お前らってほんとおせっかいだよな!」



なんだかんだでこいつらとつるんでるのは大好きなんだ。
絶対にこいつらに言ってやったりしねえけどな。
余談だが喫茶店に言ったら予想通りチェシャさんには憐れんだ目で見られ、さらには予想外なことに宗一郎のとこの副部隊長コンビがいてちょっとした喧嘩になったのも今では良い思い出である…と思いたい。





俺の左頬に紅葉が出来た日
(てめえ藤ヶ崎!隊長に向かってなんて顔してやがんだ!)
(ハン、振られまくりな二番隊長さんに微笑んでやってんですよー)
(うわあこいつマジでムカつく!!)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ