Glare5
□賑やかというより騒がしい
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『嬢ちゃんどこの一族だい?髪の色からして…鬼火とか炎の化身の類い、か?』
『…。某は桜の化身で男にござりまする。』
『ほぅ珍しいねぇ、桜の化身か。それにしても…男だって?はは、冗談はよしてくれよ。』
『本当でござる。』
『ははは、その嘘には引っ掛からねぇよ。』
『本当でござる。』
『さては凪丸さんにそう言うように言われてんだな?嬢ちゃん可愛いか…』
『ええいいい加減にするでござる!さもないとその顔に風穴を…』
『はーい小太郎ちゃん、ちょこぉっとうちとお話ししましょうねー。』
『…ハイ…。』
「さて。小太郎ちゃん、まず最初にうちに言うことは?」
「申し訳ございませんでした。」
背後から阿修羅を思わせる雰囲気を漂わせながら微笑む凪丸に小太郎は深々とお辞儀をする。
今の凪丸に口答えすることは死を意味する、今まで他の妖怪と接する機会の全く無かった小太郎にもそれは十分に理解出来た。
「もう…いい加減流すことを覚えなきゃ駄目ですよ。」
「しかし某はおなごではないでござる…。」
「男の子で可愛いって言うのは欠点じゃないんですよ?現に可愛さを売りにしている子もいますしね。」
「可愛さを…売りに?」
小太郎は目を丸くする。
まさかそんな者がいるとは思わなかった。
凪丸は小太郎を見てくすりと笑うと小さく頷いた。
栗色の髪が柔らかく踊る。
「小太郎ちゃんは今まで里から離れた場所で暮らしていたらしいですから知らないと思いますけど、この里は有名なバンドが活動の拠点としているのです。」
「バンド…でござるか。」
「宵闇って言うバンドなのですけどね、そこのベーシストさんがとても可愛らしい男の子なのですよ。」
妖狐の一族の、五十鈴ちゃんって言うんです。
名前を覚えさせるように凪丸はゆっくりと言葉を紡ぐ。
五十鈴、と口の中で名前を転がしてみる。
そんな小太郎を見て眉尻を下げながら笑うと凪丸は二三度頭を撫でた。
「五十鈴ちゃんはうちのお店によく来てくれますからね。そのうち会えますよ。」
「そ、そうでござ…」
「何が何がー?」
「きひひっ!壁に耳あり障子に目ありーってな!」
背後から突然第三者の声が耳に届いた。
見知らぬ声に驚いて振り返れば、そこには濃い桜色の髪に紫色の目を持つひょろりとした男と、金色の髪に紅い目を持つ少年の姿があった。
状況の整理がつかず縋るような思いで凪丸を見上げれば凪丸はくすくすと笑いながら再び小太郎の頭を撫でる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ほら、さっき話したでしょう?あの子達が宵闇のメンバーさんですよ。」
「はっじめましてー!ボーカル担当、後ろ神の遊汰君でっす!」
「ベース担当の妖狐の五十鈴なんだーよねー。初めまして、君はだぁれ?」
こてんと首を傾げながら尋ねて来る五十鈴の問いに答えれば五十鈴は尻尾を揺らしながら嬉しそうに笑った。
そして小太郎の手を取るとブンブンと上下に振る。
それは彼なりのスキンシップなのだろうが余りの激しさに腕がもげそうだ。
小太郎は必死に笑顔を作りながら五十鈴の手をやんわりと解くと距離を置いた。
その光景を見て哄笑したのは遊汰、遊汰はきひひっと独特な笑い声を上げながら影を踊らせる。
「小太郎っての?おもしれぇ奴だなー!なんて言うか個性派?遊汰君びっくりー!」
「…遊汰殿程ではありませぬ。」
と言うか、この人以上に濃い人物なんてそうそういないだろう。
色々な意味で暴走する遊汰と五十鈴に挟まれた小太郎は人知れず溜め息を吐くと逃避するように視線をずらした。
(おいおいそっぽ向くなよ小太郎ー!)(そっとして置いて下され)(ゆん君、きっとこたろーはお年頃なんだな!)(なっるほどー!頭良いな五十鈴っ!)(…。)