Glare5

□狂人と踊る愚かな女
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西国の辺境地、雑草が生い茂り陰鬱とした雰囲気を放つ廃墟と古ぼけた研究所が点在する町、『ウロギ』。
マッドサイエンティストと称される者達が集って研究をする、一般人はおろか西国政府の者すら滅多に足を踏み入れないその場所に冬月はいた。
すみれ色の着物や若竹色の柔らかな髪には赤い斑点が飛び、光のない瞳は虚ろに目の前の肉塊を映していた。
彼女が手にした鉄扇からはぽたり、ぽたりと血液が滴り落ちる。
赤が地面を染めあげていく様をしばし無表情で見つめていた冬月だったが僅かに口を開くと笑いにも似た呼吸音が零れた。



「ふ、ふふ。」



ふふふ、あは、あははは。
笑いに似た呼吸音はやがて完璧な笑い声に変わる。
場にそぐわない笑い声は辺りに響き、どこか気味悪さを醸し出していた。
笑い声を上げるものの冬月の心中は複雑だった。
死よ叫びよと疼く闇人の本能に隠れて僅かに残る自我が悲鳴を上げるのだ。
血溜まりの中に今は亡き最愛の人の姿が見えた気がして冬月は静かに目を伏せた。
そんな冬月の元に靴音を響かせながら現れたのは冬月と同じ闇人の、シド。



「あはハ、血塗れの天女は美しいね。」

「…シド、」

「おやおやァ?随分と嫌そうな顔をするねェ。そォんなに僕のことが嫌いかい?」

「貴方と馴れ合いをするつもりはございませんわ。」

「あはハァ、つれないねェ。」



冬月が冷たく言い捨てればそれすらも面白いのかシドは愉快そうに笑った。
片眼鏡の奥に光る瞳は狂気で爛々と輝いている。
目の前にいるこの男も悲劇の末闇人に成り果てたのだと言う。
西国における理不尽な異種排除令の代表とも言える妖狐狩りによって妻を妖狐と間違えられ、殺害されたのだ。
愛を待ち受けていた惨たらしい結末、狂気に染まった様が何とも痛々しくて冬月はきゅうと眉を寄せた。



「…それにしても酷い様だよねェ。冬月嬢は随分とえげつない殺し方をする。」



まるで僕のよォだねェ。
にやにやとした笑みをたたえながら紡がれた言葉に冬月は驚き、勢い良く顔を上げた。
シドと同じ?私が?
背中をひやりと冷たいものが撫でた気がした。
驚きはやがて焦りにも似た怒りに変わる。



「ば…馬鹿なことおっしゃらないで!私が貴方と同じ?そんなの有り得ない!!」

「なァにをそんなに焦ってるんだァい?冬月嬢、君の本質は十分僕と同じさ。」

「不快だわ、早々にその口を閉じ、」

「君はバレッタ嬢やサイレンス嬢、コロナ君とは違う。何かに縋るよォな顔をしているからねェ。」



欠けたモノを補おうと殺し、嘆きを潤そうと血を求めるんだろォ?
どこか自信ありげな様子でシドは言葉を紡いだ。
シドが指しているものは恐らく遥か昔、愛を知りそして失い、大量虐殺を繰り返したかの悪魔だ。
今日ではお伽話として伝えられるのみでありこの真実を知るものは少ない。
しかしこれを知る冬月からしたらそんな悪魔と同系列と言われるのは甚だ不快なものであった。
闇人と化した今、その本能が内面から訴えてくるのは自覚はしている。
しかしシドやかの悪魔のように哀れな存在に成り下がったつもりはない。
冬月が憎らしげにシドを睨み付ければ彼はいつも通りのあの笑みを浮かべながら足元に転がっていた肉塊を蹴飛ばした。





狂人と踊る愚かな女
(どんなに否定しても無駄だよ、君と僕達は似ている)

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