Glare5

□浸食する色
1ページ/1ページ


初めて貴方に出会った日の記憶は今も色濃く私の中に残っています。
あれは夏の足音がすぐ近くまで聞こえてきていた日のこと、新緑で賑わう並木道で私は初めて貴方にお会いしました。
早朝の空のような薄水色の髪に深海のような深い青色の目をした貴方は剣道の稽古の帰りだったのでしょう、袴姿で竹刀を片手に姿勢良く歩いていました。
ただ歩いていただけなのに貴方は一瞬にして私を惹きつけました。
思えば、一目惚れだったのかもしれません。
あれ以来私はあの並木道を通る度貴方の薄水色を探してしまうようになりました。
しかしなかなか見付からず、もう二度と会えないのかもしれないと思い始めた頃に私は再び貴方に出会いました。
母に頼まれた用事を済ませた帰り道に私は待ち望んでいた薄水色を見付けたのです。
すれ違い様には心臓が止まるかとも思いました。
それほどまでに緊張していた私は次の瞬間には更に緊張することになります。



「おい、」



骨ばった大きな手が私の方を軽く叩きました。
心底驚いて振り向けばそこにはすれ違ったばかりの貴方がいました。
これ、落としたぞ。
言いながら差し出されたものは見覚えのある髪飾り。
恥ずかしさと嬉しさが入り交じった気持ちでそれを受け取ると貴方は二、三回頬を掻いてからどこかぶっきらぼうに尋ねました。



「お前、名前は?」














「まさか三言目で名前を聞かれるとは思わなかったです。」

「…もうそんな昔のこと忘れてくれ、恥ずかしい。」

「でも勇さんが声をかけてくれたのは凄い嬉しかったんですよ?あれがあったからこそ今があるんですもの。」



口元を隠して笑いながら琴音が言えば勇は困ったように眉尻を下げながら僅かに口角をつり上げた。
この道を曲がればあの並木道に差し掛かる。
柔らかな春の太陽に照らされながら笑い合うと琴音と勇はゆっくりと並木道へと歩き出した。





浸食する色
(今ではすっかり、貴方に染まった)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ