Glare5

□月が笑う日
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初めまして、お客さま。
わたくしはケリー、しがないパン屋の店主にございます。
病に倒れた母の代わりにパン屋を切り盛りし始めて早5年、色々なことがございました。
そんな中でも最も不思議で、ほんの少し恐ろしかった出来事をお客さまにお話しとうございます。


初めて"彼"に会ったのは例えるならば月がニィと笑っているような日、三日月の夜のことでございました。
お日様が沈んでから僅かしか経っていない時間でしたので夜と定義していいのか学のないわたくしにはわかりません、しかし笑うような月が浮かんでいたのは確かでございます。
そんな日に彼はやってきました。



『食パンを一斤ちょうだい?』



まだまだ幼さ残る少年の声でございました。
姿を見やればそこにいたのは月兎の少年で、自分よりもいくらか背の高いわたくしを見上げながら言う彼を微笑ましく思いました。
深い深い緑色をした彼の瞳は真っ直ぐにわたくしを見つめていて、微笑ましく思うと共に僅かに照れてしまったのも確かでございます。
わたくしは笑みを返して彼の握っていたお金を預かり焼きたてのパンの入った袋を渡しました。
彼のような少年がわたくしの店にお使いに来ることは多々ありましたしその時わたくしは気にも留めませんでした。
あの日からたびたび彼はパンを買いに来るようになりました。



『ねえケリー、パンを一斤ちょうだい?』

『わかったわ。シャルロッテ、いつもありがとうね。』



わたくしと彼、シャルロッテはいつしか名前を呼び合うようになりました。
シャルロッテ、わたくしがそう呼べば彼はくすぐったそうな笑みを浮かべながら返事をする、そんな習慣にも似たものが出来始めたのでございます。
ただパン屋とお客と言う関係でございますのにわたくしにはシャルロッテが弟のように思えて仕方がありませんでした。
しかしそんな日々が崩れさるのは意外と呆気なかったというのも事実でございます。



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