Glare4

□風車のうた
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「ご主人、あれです!あれですよっ。」



小虎を見上げながらナズナは興奮した様子で声を上げた。
今日は東国中央部で最も規模の大きい祭りの日、以前からこの祭りの話を宗一郎や韋助から聞いていたナズナはこの日を心待ちにしていたのだ。
何日も前から祭りに行きたいとねだっていた甲斐があってかはたまたナズナを娘や妹のように可愛がっている総統や軍隊長のおかげか、何はともあれナズナは無事ご主人と呼び慕う小虎と一緒に祭りに行けることになったのである。
歩幅こそ狭いが下駄を鳴らしながら全力で駆けて行くものだから手首を捕まれている小虎は時折つんのめりそうになる。



「おいナズナ!屋台は逃げないから少しは落ち着け!」

「嫌ですよ!屋台が逃げなくてもご主人と行くお祭りの日は今日だけなんですもん。」

「…。」



嗚呼、ぷうと頬を膨らませながらそんなことを言われたらもう何も言えないではないか。
この人形ときたらここ最近一段と人間らしくなっている。
随分と年の離れた妹を持ったものだ、吐き出しそうになった溜め息を飲み込むと小虎は空いている手でナズナの頭をくしゃりと撫でた。
小虎の行動を了承と取ったのかナズナは嬉しそうに笑うと先程よりも引っ張る力は緩めつつも再びお目当ての屋台に向かって歩き出す。
向かった先にあったのは風車を売っている屋台、色鮮やかな風車が風を受けてくるくる回る様が幼少時代を思い出させる。
かじりつくように風車を見始めたナズナを見ながら小虎は口を開いた。



「なあ、そんなに風車が好きなのか?」

「はい!風車は祇園のお祭りに連れていってもらった時にあっちのご主人に買ってもらったです。」

「…そっか。」



あまりにも嬉しそうに"あっちのご主人"の話をするものだから"ここのご主人"である小虎はなんとも言えない気持ちになった。
ナズナが東軍、そして我が家に来てからの日々は今まで以上に楽しい。
ナズナという存在が今ではもう欠かせないものとなっているのだ。
しかしそれはあくまで小虎の個人的意見、ナズナは向こうの世界に帰りたがっているのではないだろうか?
時折ナズナの口から"あっちのご主人"の話が出るとどきりとする。
ナズナが帰りたいと言ってきたら自分は一体どうするのだろうか、勇殿や総統ならばなんて返答するのだろうと回り続ける大群の風車を見ながら考えていたらふいに服の裾を引っ張られた。
視線を落とせば黄色と緑、同じ柄の二つの風車を持ったナズナが自分を見上げていた。
毎度、と風車売りの威勢のいい声を聞いて勘定が既に済んだらしいことを知る。
ナズナに払わせてしまったという申し訳なさからすぐさま財布を出そうとしたがナズナによって制された。



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