Glare4

□女装癖はありませぬ
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「…凪丸殿、冗談でござろう?」



見なくてもわかる、きっと今自分のこめかみには青筋がくっきりと浮かんでいるのだろう。
小太郎は手渡された着物と目の前の猫また、凪丸を交互に見やるとひきつった笑みを浮かべた。
凪丸に渡されたのは淡い黄色の地に蝶が舞っている可愛らしい着物。
明らかに女物のそれに苛立ちと呆れを隠せないでいる小太郎とは裏腹に凪丸は楽しそうに笑いながら小太郎をその濃紺の瞳に映した。



「小太郎ちゃんは女の子のように可愛らしいですから女物の着物の方が良いかなって思ったんですよ。ほら、花があった方がお店も栄えるでしょう?それに…」



栄えたらその分早くお家に帰してあげますよ?
愛想のいい笑みを浮かべながら凪丸は言う。
自分が我慢すればより早く故郷に帰れる、しかし小太郎の脳内には忌々しい朝方の件が浮かんでいた。
あんな思いは二度としたくない。
小太郎はにこにこと笑う凪丸に着物を返した。
あらあら残念ですね、全く残念そうに感じられない返事を紡ぐと相変わらず笑みを浮かべたまま凪丸は受け取る。



「じゃあ…さっき金髪の子がいたでしょう?あの子那智君って言うんですけど…新しい着物を買うまでの間あの子のお下がりで我慢してもらえますか?うちの古着は女物ばかりですから。」

「…?凪丸殿の着物が女物なのは当然なのでは?」

「え?…ああ、そう言えばまだ言ってなかったかもしれないですね。」



うち、こんな格好だけど性別は男なんですよ。
突然の告白に小太郎は目が点になった。
そして上から下までじっくりと凪丸を見る。
頭の高い所で結われている栗色の髪に化粧の上からでもわかる整った顔、艶のあるぷっくりとした唇は男のものとは思えないほど色っぽい。
女性のように美しい立ち振る舞いに桜の花弁が散る薄紅色の着物が良く合っている。
そして柔らかな中性的な声はしつこくない色気が漂う。

女顔の自分が言えることでは無いが美女としての要素を全て兼ね揃えているこの人物が男だなんて誰が思おうか。
小太郎はただただぽかんと口を開けることしか出来なかった。



「うふふ、うちは色町出身ですからね。姉様方を見て育ったらこんな風になってたんですよ。」

「そ、そうでござるか…。」

「邪魔するよー。」



ふいにカラリと戸を開ける音がしたかと思うとベリーショートの水色の髪の女性が入って来た。
女性は人懐こい笑みを浮かべながら凪丸に挨拶した後、小太郎へと視線を移す。
途端、きらきらと輝く瞳。



「うっわぁ可愛い!なぁ凪丸、こんな可愛い子雇ったんならなんでアタイに教えてくれなかったのさ!」

「え、あの…」

「アタイは雪女の氷柱!アンタはなんて言うんだい?」

「こ、小太郎…」

「随分と男らしい名前だね。でも可愛いしアタイはいいと思うさ、うん!男らしさと女らしさが混ざっていて最高さね、いやぁ妹に欲しいよ!」

「…氷柱、小太郎ちゃんは女の子じゃないですよ。」

「………へ?」



水色髪の女性…氷柱は驚き、マシンガントークを止める。
嗚呼、そんなに驚くことか。
小太郎は小さく溜め息を吐いた。





(男なのにこんな可愛いなんて…凪丸と同じ系統?)(某に女装癖はありませぬ)(うふふ、小太郎ちゃん後で覚悟して下さいね)

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