Glare4

□緋色の涙
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深夜、暗闇の中で月が笑う。
明かりの灯っていないとある家の中にルチカはいた。



「バレッタ、あたしの大切な子。」



優しげな、それでいて掠れそうなくらい切なげに言葉を紡ぐ。
このまま闇に溶け込んでしまいそうな儚げなその姿、彼女が悪魔だなんて誰が思うだろうか。
目を伏せ、肩を震わせる彼女は酷く人間じみていた。



「ほんと…どこまでも優しくて愚かな子、母親の愛なんかを信じて。結局、あなたに与えられたのは愛じゃなくて死だったじゃない。」



(ルチカお姉ちゃん)
甘えるようなあの声を発していた口からは頼りない呼吸音しか聞こえない。
唇を噛みしめながらルチカは全身がぼろ雑巾のようにズタズタの幼い少女、バレッタの体を抱きしめた。
血に濡れたバレッタの体はほんのりと暖かく、しかし着実に死に近づいていることを示していた。
それが悲しくて、悔しくて、ルチカは
より一層悲痛の表情を浮かべる。
もっと早くに異変に気付けばバレッタを救えたのだろうか?
様々な思いが渦を巻く。
まさか悲劇の製造者である悪魔の自分が悲劇に遭うだなんて思っていなかった。
愛する者との離別は激痛を伴い、ルチカの幸せを過去へと風化していく。
どんなに願っても届かない声、逝かないで。



「幸せになって欲しかった。愛されて、愛して、たくさん笑って。あの子の生はこれからだったのにあんまりだわ、あんなにいい子が実の母親にこんなこと…どうして死神は助けてくれなかったの?」



さらりとバレッタの髪を優しく梳く。
するすると零れる鮮やかな桃色の髪はまるでバレッタの儚い一生を表しているようだった。
救った手からこぼれて逝く儚い命、ルチカはどうしても繋ぎ止めたかった。
…そうだ、自分の力で繋ぎ止めればいいんだ。
ルチカはゆっくりと顔を上げる。
月に照らされたその顔には狂気の色が滲んでいた。



「大丈夫、あなたを一人逝かせはしない。あどけない少女すらもろくに救えないような奴らの元へなんか逝かせるものですか。」



闇が、全てを飲み込むそれがルチカの言葉に呼応するかのように動き出し、やがてルチカとバレッタ
を包み込んだ。
狂気じみた笑みを浮かべるルチカは壊れものを扱うようにそっとバレッタの体を抱き締める。
どこまでも人間じみた悪魔、永遠を生きる彼女は特別な存在と化した少女と別れを告げられる程大人ではなかった。
静かな闇の中でルチカは言う。



「闇よ、深くに眠るものよ。」



ルチカの声がりぃんと響いた。
するとどうだろう、バレッタの体はじわりじわりと闇色に染まり、やがて全身が辺りの闇と同化してしまった。
完璧に同化したのを確認するとルチカは金色の瞳を伏せながらもはっきりとした声色で言葉を紡いだ。



「堕ちる者、バレッタ・バロッタに祝福を。」



狂気を注ぎ込んで闇人にしてでも、側に。
それがルチカの選んだ最善の手段だった。
これで、ずっと一緒。
薄く笑うルチカだったがその頬には悪魔特有の緋色の涙が光っていた。
何故だろうか、これからずっとバレッタといれるのに。





緋色の涙
(流れる理由を、彼女は知らない)

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