Glare3

□人の話を聞け
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「…。」



桜の樹は枯れた。
時の流れが生んだ桜の化身、小太郎は寄り処の最期をスミレ色の瞳に静かに映していた。



「母上…。」



今までそこに存在していた生はない。
ただ、死だけが大きな桜の樹を取り巻いていた。
生けるものには必ずやって来る静けさが哀しくて、小太郎は透き通った声でそっと暖かな名前を呼ぶ。
母上、この桜の樹は確かに小太郎の其れだった。



「どうしたんだ?」



辺りに響いた男の声。
凛とした声はおそらく若い男のものだろう。
くるりと振り返った先にいたのは予想通りカラスのような真っ黒な髪に金色の目の若い男。
…出来れば今は誰にも会いたくなかった、そう思いつつも小太郎は口を開いた。



「母を亡くしたのだ。」



嘘は言っていない。
確かに小太郎はこの桜の樹から生まれたのだから。
暫しの沈黙、いくら待っても男からの返事は来ない。
向かい合ってる状態でこのまま立ち去るのもどうかと思い戸惑っていると何を考えたのか男は側まで歩み寄り、小太郎の顎を持ち上げて不敵に笑った。


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