Glare4
□思い出は緑
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「あなたが噂の虎の子?ふぅん…目だけは立派な肉食獣の目ね。」
あれは俺がまだ荒れていた頃のこと。
軍人学校創設以来の問題児、毎日教官と喧嘩を繰り返していた俺の目の前にあの人はやって来た。
褐色の肌に薄い金髪、しゃんと佇むその姿にどこか気品を感じてその独特な雰囲気に俺は圧倒された。
あんなに真っ直ぐな瞳で見られたのは初めてだった。
見透かされるような緑色の視線に背中に冷や汗が伝うのを感じた。
でも、俺はまだ子供だった。
「女が気安く話しかけんじゃねぇよ。」
精一杯の反抗。
思い切り睨み付けて、相手が去るのを待つ。
でもあの人は去らなかった、目線すら逸らさなかった。
ただ真っ直ぐに俺を見つめていた。
「さっさとどっかに行け。」
「…。」
「おい、聞いてんのかよ。」
「…。」
「…てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ!?」
「…ふざけてるのは、」
とても会話とは言えない一方的な言葉のやりとりに苛立った俺が声を荒げた時、あの人はゆっくりと口を開いた。
ふざけてるのは、反抗することしか出来ないあなたでしょう?
ぞくりとした、鬼教官と恐れられている人が鞭を片手に睨んで来た時だって何も感じなかったのにただ佇んでいるだけのあの人に見つめられたら呼吸すらも忘れてしまった。
この人には敵わない、緑色の目は刺すように俺を見つめていて、小さな恐怖と敗北感が俺の中でじわりと広がった。
「…お前何者だよ。」
「普通は自分から名乗るものよ?」
「…。雛塚小虎、東国軍人学校の問題児だ。」
「自己紹介ありがとう。あたくしは橘きらら、東国東方支部長よ。」
「は……?」
今なんて言った?そんな言葉すらも出なかった。
俺はそんな偉い人に暴言を吐いたってことかよ。
あれほど驚いたのは初めてだった。
東方支部長が女って言うのは知ってたけどまさかこんな華奢な人だったとは思わなかった。
あの人、橘支部長はあの緑色の瞳に俺を映しながらにこりと笑うと手を差し伸べながら言ったんだ。
「小虎、まだまだ小さな虎の子。いずれあなたの牙は民を守り、あなたの爪は未来を切り開くでしょう。…おいで、こんなところで足踏みをしている暇はないわ。」
このとき俺は誓った、立派な軍人になってこの人を支えよう。
そして、国を守ろうと。
俺は片膝をつくと橘支部長の手を取り、そっと口付けを落とした。
思い出は緑
(俺を変えたのはあの緑色の瞳)