Glare4

□別れ道
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「私はその意見には反対だな。」



静かな、しかしはっきりとした律の声が響く。
南方支部長の明智恭介は唇を噛みしめながら俯いた。
研究所の多い南方を束ねていて、且つ自身も科学者である恭介は科学に重点を置いた意見を提示し続けていた。
そんな恭介が今回提示したのは人型生物兵器の研究。



「…我が輩も反対である。研究職の御人達にとっては研究対象として申し分ないかもしれんが…我が輩から見れば道徳に反しているように思える。」

「あたくしも同意見だわ。ハーモニアのギリシャ神話だけど…博識なあなたならイカロスの話はご存じでしょう?神に近づきすぎることは破滅を呼ぶわ。」



北方支部長ウィントリー・アコニットマン、東方支部長橘きららも律同様賛成の色を示さなかった。
縋るような思いで最後の一人である西方支部長の林田与市に視線を移したが与市は何も言わずに首を振った。
しばしの無言が訪れたが、やがて律が立ち上がって口を開く。



「明智支部長、何故そこまで生物兵器を導入したがる?」

「そ、そ、それは…」

「御人のことだから悩みに悩んだ結果がこれなのであろう。しかし橘支部長が言った通りに神に近づきすぎることは破滅を呼ぶ。…今一度考え直してはくれないか?」

「…。」



何故?何故みんなわかってくれない?
人型生物兵器さえ作ることが出来ればそれを戦線に投入するだけで東国側には死傷者が出ないのに。
何とも言えない悔しさがこみ上げてくる。
恭介は俯きながら痛いほどに拳を握りしめた。
南部支部が幹部陣から距離を置くようになったのはそれからだった。




別れ道
(御国の為、そしてすれ違う)

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