Glare4

□神に嘆願
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今し方書き終えた書類を読み返してから私はペンを置いた。
脇に置いていたコーヒーはすっかり冷えてしまっている。
そんなことにも構わずに冷めきったコーヒーを飲み干すと私は小さく溜め息を吐いた。



「烙舞。」



愛しい息子の名前を紡いでみると途端に柔らかな銀髪の少年の姿が脳裏に浮かぶ。
自分を見上げる淡くオレンジがかった瞳は今何を映しているのだろう。
血が繋がっていなくとも確かに大切だと思える、ラクマを思うと自然に口許が綻んでいくのを感じた。

ふと壁に掛かったアンティーク調の時計を見れば時刻は午前二時。
もうこんな時間かと一人苦笑するとゆっくりと立ち上がった。



「…明日、いや今日は最高で最期の日かもしれないね。」



ぽつりと呟きながらサイドテーブルの引き出しをなぞるように触れる。
何となく、己の背後に佇む死の気配を感じていた。
この引き出しには私に万が一のことがあった時のための手紙が入っている。
もし私が死んだら、この手紙を最も信頼する友人のチェシャに届けてもらうつもりだ。
…しかし、そんな日が来ないことを私は願いたい。
愚かにも私は、父親らしく烙舞の成長を傍らで見守っていたいのだ。



「はは、悪い方向に考えるのはもうやめにしよう。」



悪い方ばかりに考えていたら折角の幸せな一日が台無しになってしまう。
明日は待ち望んだ烙舞と家族になれる日、私が不安そうになっていたら烙舞まで不安になってしまうだろう。
それはいけない。
しかし、生憎考え始めると止まらない私の脳内には最悪の出来事がゆらりと映った。
赤い、紅い中にぽつりと映るのは綺麗な銀色。
…いや、こんなこと絶対に起こらない。
最悪の考えを振り切るように首を左右に振ると私は床に跪き、十字を切ってから両手を組んだ。



「時神子、ジュイよ。」



どうか私の可愛い息子を一人にしないでおくれ。
縋るような私の声は窓の外で鳴いたフクロウの声にかき消された。





神に嘆願
(祈るより他は無かった)

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