ILOVE YOU!
□潮江文次郎
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「女だぁ?忍の三禁の一つだろうが馬鹿たれい。」
そう米粒を飛ばしながら断言する文次郎に、仙蔵はふぅんと鼻
を鳴らした。
「堅物」という言葉がこれ程似合う男もそうそういないだろう
。
今時そんな教科書のいろはを真面目一身に唱える者など、一流
の忍びでも滅多にいない。
要は溺れて我を忘れなければいいという話であって、かたくな
に拒めという訳では決して無いのだ。
だのにこの男ときたら
『峠の茶屋でいい女が働きだしたらしい。物見がてら一服しに
行かないか。』
と軽く声を掛けてもこの調子である。
(面白みの無い奴…。)
煮魚を主菜に二つの小鉢、小松菜の味噌汁に玄米と栄養面にお
いても素晴らしい彩りを放つおばちゃん渾身の一膳を、機械的
に黙々口に放り込んで行く文次郎を眺めながらつくづく仙蔵は
思った。
ぴくり
膳の八割方を腹に納めた辺りで、ほんの少し、椀を持つ文次郎
の腕が震えた。
おや、と仙蔵が神経を研ぎ澄ませれば覚えの無い小柄な気配が
食堂に向かって来ている。
文次郎の知り合いなのかと視線を彼に戻せば、文次郎は最後の
小鉢を一気に口に詰め込みそそくさと席を立とうとしている。
明らかに様子がおかしい。
「…まあ待て文次郎。食後の茶位付合ってくれても良いだろう
?」
半ば宙に浮上がりかけていた文次郎の下げ膳を、すかさず仙蔵
の手が机へと引き下げる。
「てめぇ…。」
「水臭いじゃないか、私にも紹介してくれ。この気配…、くの
たまだろ?」
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