テニスのキオク
□遠く、遠く
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今日は、一年に一度の、願いが叶う日。
沖縄、比嘉中学校のテニス部にその男はいた。
「――――ぅ」
「はぁ……」
「――郎」
「ん゙〜……」
「裕次郎」
「はぁぁぁぁ」
「裕次郎っ!」
「ぅわぁっ!」
耳元でいきなり怒鳴られ、その男――甲斐裕次郎は、驚いて飛び上がった。
「凛〜…いきなりぬーだばぁ?」
「いきなりじゃないぜ。もう何度も呼んださー」
「ぇ、じゅんに!?」
「……ふりむー。ボーッとするなよ、副部長」
「ぅぅぅ…」
平古場に言われ、シュンと縮こまる甲斐。
飼い主に怒られた犬に見えるのは気のせいじゃないと思う。
「…で、ぬーだばぁ?」
「永四郎が呼んでるさー」
そう言った瞬間に縮地法フル活用で走っていく甲斐。
「……まー、急いでももうゴーヤー確実だけどな」
哀れ裕次郎、と平古場は呟いた。