book3
□泣き虫
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雨の日でした、
「ねぇ」
君に出会ったそれだけ。それだけは以上も以下もないのにほんの五秒だけで良かった。
地球を動かすのもそれだけで良かったみたいだ。今確かに大地が回り続けるのもそれだけみたいだ。
泣き虫
今君は知らない誰かを考えているの?
この手に残る手の感触もいっそ消えてしまいますように。一刻も早く彼方へ飛び立ってしまいますように。
それすら届かない。
「一回だけ、手、繋いで」
多分君は呪文をかけた。無防備で従順なこの身体が馬鹿みたいに手を繋ごうとするのを見て微笑んだその表情がこびりついて黴になる。離れない。離れる気もない。離す気もない。離さない。ずっと先の明日が見えていても離さない。そうしているうちに繁殖はどうなってしまったのだろう?
分かってたんだ君が違う人間を描いていたことは。
目を瞑って耳を塞いで何もないがらんどうの心を。こうして脱け殻になれればいいんだ。そうすれば何もかも忘れる。
そんなの無理だって知っていてもいつか君がそうしたように全世界から目を叛けてやる。忘れることなんか出来ないという嘲笑も罵倒も跳ね返す。この心を守るのは自分だけ。
「こういうの何て言うか知ってる?」
「……何」
「自暴自棄って言うの」
結局誰も幸せになってないじゃないか。
絶対の苦痛がキミの全身を締め付けるのが見える。ボクのこの能無しの右手は何も出来ない。手を伸ばしてみても、何度立ち上がっても、涙を零しても、
後悔だってもう遅い。溜め息だって出ない。果てなく消えない。掛かった罠が外れる日を夢見てだけど決して外れることはない。
二つの手が寄り添って一つになる一瞬をこの目で見た。嬉しいはずなのにずっと望んでいたのにそれなのに哀しいのはそうだ。
あの時キミが泣いていたから。そしてボクは、
「あのさ」
「ん?」
「もし、お前があいつのことを全部忘れたら」
「……うん」
「その時は」
その時は、ボクと、
「その時は、また泣いてええから」
言えないけれど、嗚呼本当は言いたいんだけど、その時はボクとちゃんと手を繋ごうって言いたいんだけど、
(2009 2/18)
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